「週末映画館でこれ観よう!」今週の編集部オススメ映画は『世界でいちばん悲しいオーディション』

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、元遭難フリーター・石井が『世界でいちばん悲しいオーディション』をプッシュします。

『世界でいちばん悲しいオーディション』

 午前中は授業をサボり名画座に、午後は部活のために体育館へ、夜は部員とお酒を飲み、まさに自堕落なTHE・大学生だった2009年。「好きなこと」だけをやるモラトリアムな日々を送っていた自分に、鋭い痛みを突き刺したのが岩淵弘樹監督作『遭難フリーター』でした。岩淵監督がキヤノンの工場で働いた日々を映したこのセルフドキュメンタリーは、華やかさや格好よさとは無縁の、むき出しのリアルが描かれていきます。“個人”として扱われず、黙々と工場で単純作業を繰り返し、「俺はこんなものじゃない!」と必死でもがくその姿には、遠くない未来に訪れるであろう自分の未来を見た気がしたものでした(実際、正社員とは言えない、なかなかハードな某映画雑誌編集部に浸かっていく時期が数年後に訪れるのですが)。等身大の岩淵監督の姿に共感してしまった青春映画としていまなお心に残り続ける1本です。

 そんな岩淵監督の最新作となるのが、芸能事務所WACKのアイドルオーディションに密着したドキュメンタリー、『世界でいちばん悲しいオーディション』です。アイドル×AV監督の攻防を描いた『アイドルキャノンボール』シリーズなど、一連のWACKドキュメンタリー群は、これまでのアイドル映画とは一線を画する作品として衝撃を受けました。絶対にテレビでは作ることのできない過激さ、そしてそこにある監督・カメラマンたちの覚悟。「ドキュメンタリーって面白い!」と素直に思わせてくれるだけでなく、なにかを作ることへの本気さに、勇気と嫉妬を覚えたものでした。

 そして、本作もまた作り手たちの覚悟と、「こんなもの映していいの?」と思う映画でしか描くことのできない内容が詰まったドキュメンタリーとなっています。オーディション合宿には24人の参加者たちがいます。普通にドキュメンタリーを撮るのであれば、誰か「主役」となりうる人を立て(『プロ野球戦力外通告・クビを宣告された男達』(TBS系)のような感じで)、合否にまつわる悲喜こもごもを描くかと思います。でも、本作はそうはしません。不思議なことに、作品を見終わった後、24人の「誰か」が記憶に残るというよりも、そこで行われた参加者たちの必死さ、プロデューサーである渡辺淳之介さんの言葉、脱落者発表時の重苦しい雰囲気など、一連の事象が頭に焼き付きます。

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