TBSドラマに見る、女性の作り手たちの活躍 “理性を重んじる”人間を肯定的に描く作品が増加傾向に
これは綾瀬はるか主演の『義母と娘のブルース』(以下、『ぎぼむす』)も同様である。脚本を担当した森下佳子は『世界の中心で愛をさけぶ』『白夜行』『JIN-仁-』『わたしを離さないで』等の綾瀬はるか主演のTBSドラマを多数手がけてきた。今回、『ぎぼむす』で綾瀬が演じたのは、とある事情から契約結婚をして義理の娘を育てることになったキャリアウーマンの宮本亜希子。契約結婚というモチーフは同枠でヒットした『逃げ恥』を連想させるが、亜希子の造形は、森下の師匠筋にあたる遊川和彦・脚本の『女王の教室』の阿久津真矢(天海祐希)や『家政婦のミタ』の三田灯(松嶋菜々子)といった、感情を表に出さずに機械的に振る舞う女性ヒロインの影響を強く感じる。
彼女たちは不気味な佇まいで学校や家庭に現れ、圧倒的なカリスマ性で秩序を徹底的に破壊した後、共同体を再生させる機械仕掛けの女神である。遊川が生み出した機械のような女性たちが周囲を翻弄していくキャラクタードラマのパターンは『ハケンの品格』や『家売るオンナ』といった日本テレビ系のお仕事ドラマにも受け継がれており、今や一つのスタイルとして定着している。
一方の『ぎぼむす』は日本テレビではなくTBSによる制作だったのだが、そのことが微妙な違いとなって現れていたように思う。『女王の教室』等の作品が、露悪的で秩序の破壊を目的としていたのに対し、『ぎぼむす』は、今までロボットのように働いてきた亜希子が、家族を知ることで救われて、現実に軟着陸していく話に思えた。コメディがうまい綾瀬が演じていることもあってか、むしろ強調されていたのは亜希子のポンコツ加減で、有能だが融通の効かない亜希子の姿に愛嬌があったのが、本作の心地よさだろう。
『アンナチュラル』『中学聖日記』、そして『ぎぼむす』は、過去作の影響を踏まえた上で、2018年現在ならではの現状認識と結論に着地させた作品だった。その結論とは、感情よりも理性を重んじようとする振る舞いと、ある種の社会性であり、その筆頭が野木亜紀子の脚本だったと言えるだろう。
それが結果的に過去のヒットドラマにあった、社会に対するカウンターとして発していた狂気や破壊願望を退け、現実に着地する話になっていたのは、大きな傾向だったと言えるだろう。これを女性脚本家ならではと言っていいのかはよくわからないが、理性を重んじる人間を肯定的に描く作品が増えているのは、喜ばしい限りである。
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
■放送情報
『アンナチュラル』
12月31日(月)〜1月2日(水)全話一挙放送
12月31日(月)ごご12時〜4時30分
1月1日(火)ごご2時30分〜5時30分
1月2日(水)あさ9時〜11時
※一部放送されない地域あり。詳しくはお住まいの地域番組表にて。
出演:石原さとみ、井浦新、窪田正孝、市川実日子、池田鉄洋、竜星涼、小笠原海(超特急)、飯尾和樹(ずん)、北村有起哉、大倉孝二、薬師丸ひろ子(特別出演)、松重豊ほか
脚本:野木亜紀子
プロデューサー:新井順子(ドリマックス・テレビジョン)、植田博樹
演出:塚原あゆ子(ドリマックス・テレビジョン)
製作:ドリマックス・テレビジョン、TBS
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/unnatural2018/