新垣結衣の退職がゴールじゃない 様々な人生を肯定する『獣になれない私たち』の温かさ

 それでも人々は、スポットライトの当たらない中でも根を張り生きている。「みんな、そうだから(あなたも我慢してください)」と流される苦痛や叫びを、あえて浮き彫りにすることで、『獣になれない私たち』は影に隠れてしまいそうだった人たちを肯定してくれた。さらに、パワハラ社長の九十九や、迷惑かけっぱなしの朱里(黒木華)を、手放しで嫌いになれないのが、本作の素晴らしいところ。それは、どんなキャラクターにも愛せる部分を欠かさなかった野木の脚本の力であると同時に、様々な人生の選択を尊重する野木からの愛が含まれていたからではないだろうか。

 正直なところ、自分の境遇とあまりに似すぎていて、目も当てられないくらい苦しいエピソードもあったと思う。でも逆を言えば、自分の苦しみにしっかり向き合っていない自分に気付かせてくれたのが『獣になれない私たち』でもある。幸せへの選択は難しい。お風呂に浸かったり美味しいものを食べたりしたときの瞬間的な幸せは得られるものの、その寿命は短い。ただ、不幸せの排除はできる。「自分を殺して本当に死んでしまう前に」、自分のために住み心地の良い肉体と環境を用意するくらい何の罪でもない。

 「今、幸せ?」と聞く京谷(田中圭)に「これはこれでありかな」と晶は答えた。晶の選択は正しかったかはわからない。無職になったら生活は苦しいし、その先の保証もない。でも、第1話のときから感じていた胸の詰まりは、教会の鐘を眺める晶と恒星には感じられなかった。誰がなんと言おうと「これはこれであり」。完璧を追い求めすぎず、他者の目を気にしすぎず、人生なんてそれくらいの加減でいいのかもしれない。

(文=阿部桜子)

■放送情報
『獣になれない私たち』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜放送
出演:新垣結衣、松田龍平、田中圭、黒木華、菊地凛子、田中美佐子、松尾貴史、山内圭哉、犬飼貴丈、伊藤沙莉、近藤公園、一ノ瀬ワタル
脚本:野木亜紀子
演出:水田伸生
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:松本京子、大塚英治
協力プロデューサー:鈴木亜希乃
制作会社:ケイファクトリー
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/kemonare/

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