95年の生涯に幕 マーベルという“心の居場所”を生み出した故スタン・リー氏の偉大さ

 悩み多き中学生のころ、マーベルの翻訳本と出会い、自分の人生が変わりました。ヒーローやヴィランたちが暴れまわるワクワクするような冒険世界でしたが、そのかっこよさ以上に心に響いたのは、「ヒーローたちがいつも悩んでいる」ということでした。ものすごい力を持った超人なのに、みんなのために戦ってもそれが裏目に出てしまう。そんなヒーローたちの姿に、なにをやってもうまくいかない自分を重ね合わせ、シンパシーを感じたのです。

 “マーベルのヒーローたちは共感できる”ということを知識ではなく、実体験として感じました。後にこのマーベルの世界をつくりあげたのがスタン・リーという方だと知ります。以来、故スタン・リー氏は、僕にとって恩人となりました。マーベルという“心の居場所”を作ってくれた方だからです。

 スタン氏はマーベル・コミックでスパイダーマン、アベンジャーズ、X-MENなどを生み出した作家であり編集長です。スタン氏はコミックに革命をもたらしたと言われています。それはスーパーヒーローたちを“憧れの存在”から“共感できる人物”として描くことで、荒唐無稽な超人活劇の世界の中でも映画や小説、演劇、音楽と同じくらいメッセージ性の強い人間ドラマを描けるということを証明したからです。コミックがまだ低俗なものと見られていた時代に、その可能性を広げ、社会的地位を向上させたわけですね。

 しかしながら、この反響に一番驚いたのはスタン氏自身だったのではないでしょうか? 実は“スタン・リー”というのは本名ではなかったそうです。彼は本当は小説家を目指していて、作家として大成した時に本名を使うつもりだった。つまりスタン氏自身も、当初は“コミックの原作者ごとき”に自分の名前は使いたくなかったのかもしれません。当時コミックなんて、その程度のものだったと。しかし彼の作り出すヒーローたち(ヴィランたち)は、多くの若者の心をつかみ、小説と並ぶ、いや小説以上に彼らの人生に影響を与えるメディアであり文化に成長していったのです。

 彼は“コミックの原作者 スタン・リー”として生きていくことを決意します。

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