脚本・北川悦吏子が明かす、『半分、青い。』執筆の苦悩と喜び 「才能を毎日試されているようでした」

律は佐藤健だからこそ生まれたキャラクター 

ーー2月の取材の際には、佐藤健さん演じる律が、「これまで書いてきたラブストーリーの相手役としての集大成になる」と話していました。全話を書き終えて、改めて律はどんなキャラクターになったでしょうか。

北川:佐藤健くんは、「律は自分自身の像が見えなくて、周りの人から見た律という像で成り立っている」と語っていましたが、確かに律は何を考えているか分かりづらい、でもそんなところが魅力的なキャラクターだったように思います。私自身も、脚本を書いている間に律との距離を取りかねている時もありました。和子さんが亡くなるのが怖くて眠れなくなったり、意外と情けなくて分かりやすい面も入れてみたり、一方で鈴愛のすべてを受け入れることができるようなタフさがあったり。ユラユラしたまま進んだ部分があったのですが、律に関してはそれがむしろ良かったのかなと。佐藤健くんのお芝居が本当に素晴らしかったこともあり、私のユラユラをリアルに立体化して画びょうのように止めていってくれたのかなと。彼が演じてくれることで、そうなるだろうなという計算がついたので、そのユラユラがあってもいいという幅を作れたように思います。最終的に、「律はこんな人」というわかりやすい答えを出すのではなく、焦点を結ばないまま終わらせたいという気持ちになっていきました。理想というわけではないのですが、ある種のファンタジーというか、みんなの心の中に「律みたいな人がいたらいいな」と思ってもらえる存在になってくれたらと。佐藤健くんだからこそ生まれたキャラクターだったと思います。

ーー鈴愛の母・晴、律の母・和子、それぞれ違った個性を持ったお母さんが序盤から物語のラストまで非常に強く印象に残りました。

北川:晴さんは、なんとなく自分の母親をイメージしていた部分があり、私自身も娘を持つ1人の母でもあるので、晴さんの気持ちになってみたり。ただ、どちらかと言えば自分の母親を投影した部分があったかもしれません。ちょっと小言は言うけど、娘のことをいつも心配していて、愛してくれている田舎のお母さん。その部分を大事に書いたような気がします。和子さんに関してはまったくの原田さんの当て書きです。律の出産のときに自分の分娩台がないという、ちょっと笑ってしまうようなエピソードをこなせる女優さんは原田さんしかいないと思います。原田さんはジブリの世界から出てきたような、本当に屈託がなくて嫌味のない方です。原田さんだったらこんなお母さんが演じられるな、という思いから生まれたキャラクターです。50歳の女優さんで、岐阜犬として「ワン!」と言っても許される方はなかなかいないと思います(笑)。

豊川悦司×永野芽郁への思い

ーー視聴者の中でも特に人気の高かったキャラクターが豊川悦司さん演じる秋風羽織です。書籍『秋風羽織の教え 人生は半分、青い。』も発売されましたが、北川さんはどんな思いを秋風に込めたのでしょうか?

北川:秋風羽織はとても思い入れが深いキャラクターです。自分が創作について思っていることをすべて彼が代弁してくれるような存在でした。1995年に放送されたドラマ『愛していると言ってくれ』(TBS系)で豊川さんと出会い、喧々諤々とやり合いながらあの作品を作り上げました。豊川さんは作品と役にのめり込む方です。耳が聴こえない画家という役どころでしたが、手話を完璧にマスターして、パリにまで行って画も描いてきて。豊川さんがそこまで本気でぶつかってくれるだけに、私もそこに寄り添えるように脚本を当時は作っていきました。今回も一緒に作品を作れることを楽しみにしつつも、お互いに50歳を超えて、舞台も朝ドラとなって、あのときの熱はないだろうと思っていたんです。そしたら、まったく衰えずで(笑)。「たとえば、僕はこうしたい」「こういうのはどうだろう?」と真摯に秋風羽織に向き合ってくれて。世の中では「格好いい」というイメージがついてる豊川さんが、あそこまで振り切った演技をして秋風羽織になってくれました。撮影が終わったときに、「還暦になるまでにもう1本一緒にやろうよ」と言ってくれて、まだまだこりてないんだなと(笑)。豊川さんと再び一緒に作品を作ることができて本当にうれしかったです。

ーーそして、なんと言っても鈴愛を演じた永野芽郁さんです。改めて永野さんの鈴愛はいかがでしたか?

北川:毎日出演しているのは芽郁ちゃんだけで、毎日書いているのは私だけだなと思って。私は1人地獄だと思っていましたけど、芽郁ちゃんも本当に大変だったと思います。「笑えなくなった日もあったし、泣いている日もあったし、眠れなくなった日もあった」と話していて、私と同じように、いや、それ以上に苦しんでいた人がここにいたんだと。タフなように見えがちな芽郁ちゃんですが、タフなだけじゃあの感受性豊かなお芝居はできません。年齢は離れていますが、本当に同志だったなと思っています。朝ドラは収録期間が非常に長いこともあり、徐々に表情が平らになっていってしまうのではという心配もあったのですが、彼女にはそれがまったくありませんでした。先日、星野源さんが『あさイチ』のインタビューで、鈴愛が漫画が描けなくなり、秋風先生、ボクテ(志尊淳)、裕子(清野菜名)に当たり散らすシーンを最も印象に残るシーンとして挙げていましたが、私も同じなんです。あのシーンは好きというよりも、本当に芽郁ちゃんの凄さを感じたシーンで、あの表情は忘れられないです。才能が枯れ果て、どうしていいのか分からない。師も叱ってもくれない。そこに生まれる絶望という一連のシーンは、クリエイターに寄り過ぎてるだけに、観ている方を置き去りにしているかなという反省がありました。ただ、個人的なことだっただけに、ものすごい熱量であのシーンは書けたと思いますし、芽郁ちゃんもそれに応えてくれたと思います。

(取材・文=石井達也)

■作品情報
NHK連続テレビ小説『半分、青い。』
平成30年4月2日(月)~9月29日(土)<全156回>
作:北川悦吏子
出演:永野芽郁、松雪泰子、滝藤賢一/佐藤健、原田知世、谷原章介/奈緒、矢本悠馬、石橋静河、余貴美子、風吹ジュン、中村雅俊、上村海成/清野菜名、志尊淳、山崎莉里那、小西真奈美
制作統括:勝田夏子
プロデューサー:松園武大
演出:田中健二、土井祥平、橋爪紳一朗ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/hanbunaoi/

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