立川シネマシティ・遠山武志の“娯楽の設計”第32回
経済の問題だけでなく、鑑賞体験の質にも影響が? 映画館定額制をシネマシティがやるとしたら
AMCのサービスが強力な理由は、これをシネコン自体が行っているからです。
MoviePassが観客の入場料をそのままの金額で劇場に支払うのに対し、主体が映画館なら配給会社に支払うべき金額は入場料の半額です。
月会費は倍で、支払いは半分。つまり、1本観られたら会費分が支払いで消えてしまうMoviePassに対し、AMCは4本観られても大丈夫だということです。ものすごいざっくり単純計算ですが。
月に4本ということは、年に48本。これだけ観る方はいかにアメリカでもさほど多くないことでしょう。つまり、多くの会員が、会費を下回った分しか観ないはずです。
会費を下回るといっても、観客からしたらIMAXやDolby Cinemaや3Dで観たなら1本ないしは2本で会費の元は取っているわけです。このプレミアムなシアターのプラス料金は、劇場が設備投資に対して上乗せしている分なので、劇場側に支払いが生じるわけではないのです。だからあたかも「観客も映画館も誰も損していない」ような素敵状況を生み出すことが可能なんですね。
…正確には映画館は設備を提供してる会社に入場人数分のライセンス料等の支払いがあったりするので、まったくノーコストではないですけど。
AMCのA-LISTはプレミアムな上映シアターもOKにしたことで、持続可能性を上げるための会費の増額を増額と感じさせず、月1回でも観れば元が取れるようにしたことでライト/ミドル層をも入会ターゲットに入れたという、繰り返しますが、実に素晴らしい設計です。
そこでこの仕組み、シネマシティでも導入できないか、と考えてみたわけです。配給会社の了解が得られるかどうかは置いておいての、思考実験ですね。
思考の過程をすべて書き連ねると膨大な長さになるので、箇条書きにしますね。
○日本の入場料を考えると月3,000円以上の会費が欲しいが、そうすると日本ではヘヴィユーザーしか集まらない。
○シネマシティにはIMAXもDolby Cinemaも無いので、その代替として何かプレミアムなシアターを作る必要があるかも。
○繁忙期だけ入会してすぐに辞められるというのはキツい。3ヶ月とか半年は継続してもらう必要がある。
○月会費はもう少し下げて、カラオケとかライブハウスみたいにワンドリンクオーダー制にする。
○ライトミアム方式ならもしかして上手くできるかも。例えば月額1,800円/月3本観られるライトプランと月額3,600円/週2本観られるプレミアムプランの2本立てにする。
他にもいろいろ考えましたが、なかなかうまくいかないですね。現状よりも映画ファンがお得であると感じ、映画館が利益を上げなければ意味がないですが、やはりかなり困難に思えます。
シネマシティは目の前の儲けよりも少しでも多くの方に世界最高クラスの映画体験を味わっていただきたいと、手間もコストも毎度かなりかけている【極音】【極爆】を追加なしの通常料金に設定してしまったのがここにきて痛いんですね(笑)。
また年1,000円/6ヶ月600円の会費で、平日は常に1,000円/土日祝が1,300円の入場料になる「シネマシティズン」という会員制度を行っておりまして、これは料金だけでなく特典も含めて微に入り細に入り考えに考え抜いて設計した制度なので、作った自分で言いますけど、ほぼ完璧なんですよ(笑)。