綾瀬はるかと竹野内豊が見出した奇跡 『義母と娘のブルース』“白”の演出を読み解く

 この謎に満ちた章という存在は、時に5つ並びの7ナンバーのバイクを運転し、時に「奇石の花屋」として、タクシーの運転手として、コピー機の修理業者として宮本家、並びに亜希子の日常に偶然にも計4回もの奇跡を巻き起こす。だが、いつもポジティブな奇跡を巻き起こしていた彼は、第5話になって突然不穏な空気を纏いはじめる。良一の入院している病院に定期的にやってくる、遺体を運び入れる霊柩車のドライバーとして。まず良一がその姿を目撃し、次に良一の検査結果を聞きにきた亜希子もそれを目撃し、彼女は一度出した親指を慌てて引っ込め、その不吉さに良一が死んだと思いこむ。そして遺体安置室にいる章の傍のろうそくが、良一の命の灯火を予感させるように、1度目は揺らぎ、2度目は消える。

 奇跡の彼は、第1話の自動販売機の奇跡のエピソードが第5話では良一が喜べないフライングの奇跡として再登場することと同じように、宮本家にとって不吉な存在へと変貌するのである。まるで1つの物語を終わらせに、天使が死神へと変貌するかのように。

 「結婚して1つ学んだことがあります。奇跡はわりとよくおきます」と第4話で亜希子は良一に言うが、奇跡はよくおきるのではない。奇跡を見る余裕がない人が日常を眺めてみたところで、そこに奇跡を見出すことはできない。

 亜希子は、奇跡を見つけだす達人・良一に倣って、奇跡を探し、見出すようになった。良一の奇跡探しを、いつのまにか亜希子が真似、みゆきもまた、良一の入院に際し、自分にできることをしようと、奇跡の収集に励む。

 第5話の終盤、電車に乗った良一と亜希子の場面で、亜希子は良一より先に奇跡を発見する。向かい側の席に座る人々がみんな白い靴を履いているという奇跡。それを知らされた良一は笑い、愛おしげにそして少し切なげに、亜希子を見つめる。そしてその白の繋がりは、彼らが撮ろうとする家族写真のための白いウェディングドレスへと繋がり、真っ白な試着室に入っていく亜希子と、その姿を眺め「奇跡だなあ」と呟き座り込む良一のラストシーンへと行き着く。

 思えばずっとこのドラマは白に包まれていた。CMに入る直前、このドラマは従来のように突然CMに切り替わるのではなく、一度黒もしくは白にフェードアウトする。そして次第に物語が深まるにつれて白い画面によるフェードアウトばかりになっていた。それは画面を包み込む丸みを帯びた温かさ・柔らかさの表現であり、成長したみゆきのナレーションが常に、遠くない未来に起こるのだろう父親の死を予感させてきたように、ナレーションにおける未来のみゆきの視点からすると“愛おしい思い出の日々”であるその光景を演出するのに最も相応しい。そしてその幕切れの白という予兆は、次第に大きくなり、白で埋め尽くされる第5話ラストへとたどり着いてしまったのである。

 奇跡探しリレーのバトンは渡った。それでもどうしても、予告のなかった本日放送の第6話で、生きた良一の姿が見られることを願わずにはいられないが、心を落ち着けて本日22時を待とう。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■放送情報
火曜ドラマ『義母と娘のブルース』
TBS系にて、毎週火曜22:00〜23:07放送
出演:綾瀬はるか、竹野内豊、佐藤健、横溝菜帆、川村陽介、橋本真実、真凛、奥山佳恵、浅利陽介、浅野和之、麻生祐未
原作:『義母と娘のブルース』(ぶんか社刊)桜沢鈴
脚本:森下佳子
プロデュース:飯田和孝、大形美佑葵
演出:平川雄一朗、中前勇児
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/gibomusu_blues/

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