立川シネマシティ・遠山武志の“娯楽の設計”第30回

映画館の最適な音量は「爆音」が正解だったーー米スピーカーメーカーMeyer Sound社を訪問

 そしてそこから車で1時間半くらいかけて、Lucus Valleyへ。曲がりくねったハゲ山の道を登っていくと、森が現れ、映画のように大きなゲートが自動で開きます。入り口はまだ先。ブドウの木や花畑が広がり、ワイルドターキーが何羽か歩き回っていたりして、まさか「会社」に向かっているとは一切思えないリゾート感。広大なんてものではない、破格のスケールに目眩がするくらいです。ようやくセキュリティゲートを通り、しばらくして眼前に現れてきたのは、南仏はプロヴァンスあたりのラグジュアリーなホテルのような洋館。

 ここはSkywalker Ranch(スカイウォーカーランチ/ランチは農場の意)と呼ばれる、ルーカス・フィルムの本社と、ライブラリ、黒澤明監督も泊まったという宿泊施設、そしてスカイウォーカーサウンドなどがある場所です。

 まずは、劇場Stag Theater(スタッグシアタ-)に案内していただけるとのこと。建物の外で待っていると、Stag(牡鹿)の看板にふさわしく、少し離れた丘に、1頭の鹿が軽快に跳ねていくではありませんか。思わず感嘆の声をあげる一同。しかし映画のプロである僕はすぐに見抜きました。

「ちょっと待った、あの鹿はSFXですよ、ここをどこだと思ってるんだ!」

 はっと我に返る一同。この程度のことはさらりとやってのけるのが、ルーカス・フィルムです。恐竜だって再現するのですから。スタッグシアターに入ろうというその瞬間に鹿が現れるなんてそんな偶然はありません。なんという素晴らしいエンターテインメント精神でしょう。

 さて、いよいよ中に通していただきます。ここは300席クラスの劇場で、いわゆる試写室ながら大変美しい意匠で、緑青の壁、後ろにはシャンデリアライクな照明スタンド、前面の両脇には等身大の祈る女神と戦士のような像が立っています。そしてスクリーンにはSkywalker Soundのロゴが。これだけで胸がいっぱいになって、涙がこぼれそうです。

 いくつかのデモ映像を見せてくれるとのこと。柔らかく心地のよいシートに座ると、場内の灯りが落ちます。

 まずは『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』の冒頭、ダース・ベイダーがレイア姫の船に乗り込んでくる場面です。しかしただ流れるわけではなく、当時のフィルム傷も入ったような古い映像に加え、音楽もなく、効果音も適当にあてただけというレアなもの。ストームトルーパーたちが撃つブラスターがズキューンというあの発射音ではなく、子どもが遊ぶ火薬鉄砲みたいなパンパンというしょぼい音で思わず笑ってしまいます。しかしその直後、映像はデジタルリマスターの超美麗で、音楽も効果音もフルに入ったバージョンにワイプで切り替わります。これが交互に繰り返され、音と映像がいかに映画の没入感にとって重要かを体感させてくれます。

 その次はなぜかロッキーシリーズのスピンオフ、『クリード チャンプを継ぐ男』のファイトシーンです。これは音のレイヤーを順に聴かせてくれるというもの。歓声だけ、パンチの打撃音だけ、セリフだけ、効果音だけ、そして最後に音楽も入った音声という感じで繰り返されます。いかに映画の音が多層的に組み合わされているかを体感できました。

 最後はそういうトリックなしの、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』序盤のミレニアムファルコンのチェイスシーン。Skywalker Sound内で『スター・ウォーズ』を一部とはいえ、観ているという映画ファン究極の体験のひとつに、ただただ陶酔してしまいますが、その中にあっても、はっと胸を突く発見がありました。このデモ上映、かなりボリュームが大きいのです。ほとんど【極爆】と同じレベルです。

 上映が終わって、案内をしてくださった方に質問しました。音量が大きめに聞こえたが、これは今回のデモのための音量なのか、と。

「そうじゃない、これはリファレンス(基準)です」

 僕は27か28歳のころ、シネマ・ツーを作るにあたって、自分がどんな映画館を目指すかというリストを作りました。そして全人生を賭けてでも、このリストのすべてを実現すれば、日本で最高の映画館が作れると考えました。

 しかしそれから5~6年後、音響家増旭さんと出会ったとき、僕はこの人と組めば、ただ国内だけでなく、もしかしたら世界と斬り結べるかも知れないと感じました。

 今、世界最高のサウンドスタジオの豪奢な劇場の中で、それが間違っていなかったと確信に変わりました。僕らがこの9年間で作り上げようとしてきたものは、まったく正しかったんだ。

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