“ミニシアターシネコン”はビジネスとして成立する UPLINK代表・浅井隆が語る、UPLINK吉祥寺の狙い

映画館ビジネスの可能性はまだまだある

ーー渋谷と吉祥寺では街に合わせて上映する作品の選定にも変化が?

浅井:映画興行の世界でいうと、吉祥寺は東京23区外ということで、横浜や川崎と同じような括りとなるんです。例えば、新宿と渋谷の場合だと、どうしても作品が競合してしまうから、新宿だけで上映したいという配給会社や劇場側の狙いがある作品があります。でも、吉祥寺だと新宿に場所は近くても、競合エリアとしては別とみなされる場合もあるので、上映できる可能性が出てくる。もっと言えば今まで都内は有楽町のみで上映されていた作品が、吉祥寺なら渋谷とは違う“エリアの外”という扱いで上映できる可能性がかなり高いんです。上映する作品の傾向は渋谷と同じでも、上映できるタイミングは大きく異なってくる可能性が出てくるかなと考えています。これは始まってみないと分からないですが。

ーー渋谷と吉祥寺は井の頭線で一本で行けるだけに、映画鑑賞のハシゴもできそうですね。

浅井:そうですね。パート1の映画を渋谷で上映した後に、パート2を吉祥寺で上映したり(笑)。何か相互割引も考えたいと思っています。

ーー渋谷と吉祥寺の街としての違いはどんなところにありますか?

浅井:吉祥寺は自転車で移動している人が多いです。つまり、駅のすぐ近くに住んでいる人が多い。もちろん、渋谷アップリンクにも自転車で来ている方はいると思いますが、観客のほとんどが自宅は渋谷から離れたところにあると思います。その点では、正真正銘、人々の暮らしの中にある映画館となるなという感覚はあります。

ーーその違いは作品ラインナップにも影響が?

浅井:当然あります。例えば、アップリンク渋谷ではファミリー層をターゲットにはしていないので、子供向けアニメーション映画はほとんど上映していません。でも、吉祥寺では必ずニーズがあると思います。

ーー今までのアップリンク渋谷とは一味違う編成になると。でも、そうなるとアップリンク吉祥寺は、まさに“なんでも観ることができる”ラインナップになりそうですね。

浅井:まだ日本には“なんでも観ることができる”映画館は誕生していないだけに、その先駆けとなるような映画館にできたらいいですね。パリのポンピドゥー・センターの近くにUGCというシネコンがあるのですが、このシネコンは31スクリーンもあって、封切られる映画はすべて観ることができるような体制となっているんです。

ーー日本でも今後そういった映画館も?

浅井:品川と田町の間に新しく山手線の駅ができますが、品川の海岸寄りには膨大な土地が空いているだけに、あのあたりに超巨大シネコンができたら面白いかもしれないですね。まだアップリンク吉祥寺がオープンする前に言うのもなんですが、機会があればほかの場所でも3~5スクリーンのミニシアターを展開したいとは思っています。

ーー映画館ビジネスの可能性はまだまだあると。

浅井:映画は衰退しているという声があって、映画館が閉館するたびに「映画館ビジネスは大変ですね」と声をかけられますが、東京と神奈川に限って言えば、まだまだチャンスはあると思っています。確かに、80年代~90年代のミニシアターブームとは今は違う状況だと思いますが、20年前の映画館のままで現在も同じように通用するという考え方がそもそも違う。客席数の増減や、館内サービスなど、リノベーションを行っていけば十分に利益を出すことができるはず。150席が1スクリーンよりも、50席が3スクリーンあるほうが今の時代には合っています。昨年から始めたオンライン映画館「アップリンク クラウド」も観客を奪い合う敵にはならず、リアルな映画館との相乗効果で順調に数字を延ばしています。新しい技術が次々と生まれている今だからこそ、映画館、映画ビジネスも常に変化していかないといけないと思います。

(取材・文=石井達也)

■施設概要
「アップリンク吉祥寺パルコ」
所在地:東京都武蔵野市吉祥寺本町1-5-1 吉祥寺パルコ地下2階
共同事業者:株式会社パルコ、有限会社アップリンク
運営:有限会社アップリンク、株式会社アップリンク・エスコルハ
スクリーン数:5スクリーン
座席数:計300席(最大スクリーン97席、最小スクリーン31席(予定))
オープン予定:2018年冬
設計:アビエルタ建築・都市 北嶋祥浩

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