単なる“男対女”を描いた映画ではない 『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』の現代に通ずるテーマ性
むしろ興味深いのは、ボビーのあおり立てに影響されて醜い本音を露呈してしまう「本物の」男性至上主義者たちだろう。かくして、偏見や不寛容はあらゆる場所にあり、この世界を住みにくくしているという本作のテーマが明らかになる。ビリー・ジーンとボビーの試合が近づくにつれ、ボビーを応援する男性たちの間に浮かび上がる女性蔑視の態度は見逃せない。これこそが真の敵であり、試合の行方とあいまって、人としての尊厳を賭けたエンディングは熱を帯びるほかない。わけても、ビリー・ジーンが全米テニス協会を脱退するきっかけを作った男、ジャック・クレイマー(ビル・プルマン)は女性を抑圧する典型的な人物であり、息をするように口をついて出る女性蔑視発言の数々にはあきれかえるほかない。ビリー・ジーンがジャックに対して見せる、ほとんど生理的な嫌悪感とでも呼ぶべき拒否の姿勢。彼女が戦わなくてはならないのは、ジャックのような差別主義者である。
本作の監督(ヴァレリー・ファリス、ジョナサン・デイトン)は、ボビーとビリー・ジーンの戦いをトランプ対ヒラリーの大統領選挙戦になぞらえるという見立てをやんわりと否定しつつ、「この映画は決して世の中を男性と女性、あるいはレッド・ステート(共和党支持州)とブルー・ステイト(民主党支持州)に分断するものではない」(劇場用パンフレット、監督インタビュー内記述)と答えている。だからこそ、クライマックスの試合は爽快なのだ。大いなる勇気をもって新しい時代を切り開いた、先駆者のエネルギーに感嘆させられるフィルムである。
■伊藤聡
海外文学批評、映画批評を中心に執筆。cakesにて映画評を連載中。著書『生きる技術は名作に学べ』(ソフトバンク新書)。
■公開情報
『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』
TOHO シネマズシャンテほかにて公開中
監督:ジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリス
製作:ダニー・ボイル、クリスチャン・コルソン
脚本:サイモン・ボーフォイ
出演:エマ・ストーン、スティーヴ・カレル、アンドレア・ライズブロー、ビル・プルマン、アラン・カミング
配給:20世紀フォックス映画
2017年/アメリカ映画
(c)2018 Twentieth Century Fox
公式サイト:battleofthesexes.jp