大泉洋、冴えないダメ男なのになぜモテる? 『恋雨』『焼肉ドラゴン』で見せた“愛され力”
一方、現在公開中の『焼肉ドラゴン』は数々の演劇賞を受賞した同名舞台の映画化。原作・戯曲・演出の鄭義信がメガホンを取り、三姉妹を真木よう子、井上真央、桜庭ななみが演じる。大泉洋演じる哲男は、幼なじみの静花(真木よう子)への想いを秘めたまま、梨花(井上真央)と結婚する。大学卒業の肩書きがあるのに、いや高学歴の肩書きがあるゆえに満足のいく仕事に就けず、憂さ晴らしで仲間と飲んでは騒ぎ、梨花と喧嘩する。短気でプライドの高いダメ男だ。
タイトルの『焼肉ドラゴン』は、キム・サンホ演じる三姉妹のアボジ(父)の名前である龍吉に由来する。小さな焼肉店を営む龍吉には、先妻との間に2人の娘、後妻の連れ子の娘、そして夫婦の間に一人息子がいるのだが、子供たち4人はそれぞれに問題を抱えている。その問題の一つ、喧嘩の火種となるのが哲男の存在である。そして、哲男もまた差別を受け、ままならない人生にどうしようもない憤りを感じ、静花への想いだけを自分の救いとしていた。
ハン・ドンギュ演じる尹大樹が静花に熱烈アプローチを仕掛けるようになると、哲男は猛烈に対抗心を燃やすようになるのだが、そのせいで焼肉ドラゴンはいつも大騒ぎになる。すぐに感情を爆発させて喧嘩する哲男と梨花は似た者夫婦なのかもしれない。だが、互いに深く傷つけ合い、救いをほかの誰かに求めている時点で夫婦は破綻している。過酷な環境の中、過去の悲しい出来事に縛られていたとしても、哲男は完全なるダメ男である。
空しい想いを抱え、仲間といつも大酒飲んで騒ぐダメ男ではあるのだが、静花と梨花それぞれに愛されるダメ男であるための魅力もきちんと表現しなければならない役柄だ。
このダメ男なのに愛されるという役柄を演じることができるのが大泉洋の凄いところではないだろうか。イケメンと呼ばれる俳優はあまたいるが、笑わせて泣かせてダメ男だと思わせておいて、愛される存在というのは大泉洋を置いて誰がいるだろう。
室生犀星の小説が原作のスペシャルドラマ『あにいもうと』(TBS系)では宮崎あおいと共演。妹のもんちこと桃子(宮崎あおい)を溺愛するあまり大喧嘩してしまう不器用でちょっと迷惑な兄・大工の伊之助を演じた。いかにも昭和的な作品で『男はつらいよ』の原型とも言われるが、人情に厚く妹への過剰な愛情あふれる兄を熱演。笑わせたかと思うと泣かせ、演技の振り幅の広さ、引き出しの多さを見せつけた。
映画の出演作は『パパはわるものチャンピオン』(9月21日公開)、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(冬公開)、『そらのレストラン』(2019年初春公開)と続き、主人公に大泉洋を当て書きして執筆された小説『騙し絵の牙』(塩田武士著)の映画化も決定している。また新たな一面が垣間見えそうだ。
■池沢奈々見
恋愛ライター、コラムニスト。
■公開情報
『焼肉ドラゴン』
全国公開中
原作・脚本・監督:鄭義信
出演:真木よう子、井上真央、大泉洋、桜庭ななみ、大谷亮平、ハン・ドンギュ、イム・ヒチョル、大江晋平、宇野祥平、根岸季衣、イ・ジョンウン、キム・サンホ
配給:KADOKAWA、ファントム・フィルム
製作:「焼肉ドラゴン」製作委員会
(c)2018「焼肉ドラゴン」製作委員会
公式サイト:http://yakinikudragon.com