映像の組み合わせ方によって“リズム”が生まれる 『坂道のアポロン』にみる、三木孝浩監督の手腕

 本作は原作に描かれているいくつかの主題の中で、とくに薫と千太郎の友情にフォーカスしている。「言葉なんかなくても、音楽でつながれる」と千太郎は口にしているが、不器用な彼らは近づいては離れてしまう。そんな彼らふたりの“間”を埋めるのが、三木監督の前々作品『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』で真っ白な光をたっぷりと浴びて、不可思議なSF的設定を自らの微笑に落とし込んでいた小松が演じる律子の存在だ。彼らの中間を位置取ってはカメラを導くように、観客を導くように、右へ左へと視線を移動させ、ときに得意の微笑を浮かべ、ときに涙を堪えながら、何度も小さく頷いてみせる。先に述べた教室でのセッションの場面のように、「ふたりが音を鳴らしているのが、うちのお気に入り」だという彼女の存在こそが「音楽でつながれる」ことを肯定するのだ。

 本作は律子が息を大きく吸い込むところで幕が降りる。映画ならではの結末だ。吸い込んだからには、このあと必ず吐き出すはずである。律子に感じるこの息づかいは、映画が終わっても、マンガが終わっても、これから続いていくはずである彼らの人生を予感させるのと同時に、原作ものを手がける名手・三木監督の次なる作品への息吹として引き継がれていくのだろう。

■折田侑駿
映画ライター。1990年生まれ。オムニバス長編映画『スクラップスクラッパー』などに役者として出演。最も好きな監督は、増村保造。

■公開情報
『坂道のアポロン』
全国公開中
出演:知念侑李、中川大志、小松菜奈、真野恵里菜、山下容莉枝、松村北斗(SixTONES/ジャニーズJr.)、野間口徹、中村梅雀、ディーン・フジオカ
監督:三木孝浩
脚本:高橋泉
原作:小玉ユキ『坂道のアポロン』(小学館『月刊flowers』FCα刊)
製作幹事:アスミック・エース、東宝
配給:東宝=アスミック・エース
制作プロダクション:アスミック・エース、C&Iエンタテインメント
(c)2018映画「坂道のアポロン」製作委員会 (c)2008小玉ユキ/小学館
公式サイト:http://www.apollon-movie.com/

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