『anone』第3話はクライムサスペンスに “虚実の対比”描いた水田伸生の巧みな演出

 今回は足元の芝居も印象的だった。

 まず、印刷中に訪ねてきた花房万平(火野正平)を、亜乃音が迎え入れて世間話をしながら、足元にある偽札を隠そうとゴミといっしょに蹴る場面。日常の中にある非日常が強調されている。

 次に、一緒にタバコを吸った亜乃音と青羽が、足元に落ちたタバコを踏み潰して火を消す動作を一緒におこなう場面。これは通貨偽造という、偽札を刷った罪の共有を2人がしたことを印象付ける。

 そして身代金を払い、解放されたハリカに亜乃音が駆けつけるシーンで、亜乃音の靴が脱げる場面。ベタではあるが、亜乃音がどれだけハリカを心配していたのかがよくわかるシーンだ。

 亜乃音は定期預金の1000万円を解約してでも、赤の他人であるハリカを助けようとする。助けた理由を聞かれて「なんでだろうね」と、ふわっとした感じで答える田中裕子の表情が素晴らしい。

 一方、西海は偽物のモデルガンで相手を脅迫して現金を手に入れる。しかしそれは偽札で、最後には自分を(偽物)の銃で撃って命を落とす。

 足元が強調されるのは、本作が地を這うような暮らしをしている人しか登場しないドラマだからだろう。一方で印象に残るのは空の高さと、遠くに見える風力発電所の風車と、煙が黙々と出る煙突だ。それらはちっぽけな人間を見下ろす神の視線のようだ。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
『anone』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜放送
出演:広瀬すず、田中裕子、瑛太、小林聡美、阿部サダヲ、火野正平ほか
脚本:坂元裕二
演出:水田伸生
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:次屋尚
制作協力:ザ・ワークス
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/anone/

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