広瀬すずは田中裕子の怪演とどう対峙する? ドミノ倒しのような『anone』第2話

 一万円札の通し番号が同じだったことで、林田亜乃音(田中裕子)のもっていたお金が偽札だと気づいた辻沢ハリカ(広瀬すず)は、亜乃音に取引を持ちかけて、彼女の印刷所で働かせてくれと頼む。病気のカノンのために偽札の発行を目論むハリカ。しかし、偽札は死んだ夫の仕業で、自分には印刷することはできないと亜乃音から拒絶される。

 『Mother』『Woman』『anone』という日本テレビ系の坂元裕二ドラマに共通するのは、女優の田中裕子が出演していることだ。どのドラマも田中裕子が演じる女性との出会いが物語の中核にある。本作の第2話でも広瀬すずが演じるハリカと亜乃音の出会いが描かれるのだが、偽札を間に挟んでの緊張感のあるやりとりは見応えがある。

 『Woman』の時は、相手がどんな演技をしてもスポンジのように吸収して、強烈なカウンターを突然打ち返してくる田中裕子の怪演を前にすると、満島ひかりや二階堂ふみといった実力派女優ですら印象が霞んでしまうのだが、今作の広瀬すずはどうだろうか。

 元々、ハリカの役柄自体が、今にも消えてしまいそうな儚さが全面に出ているので、ぶつかり合いというよりはお互いに牽制している間に第1ラウンドは終わったという感じだった。今後、田中裕子という怪物と対峙することで広瀬すずの演技にどのような変化が生まれるのか、今から楽しみである。

 ストーリーにおいても田中裕子は本作の象徴で、『Mother』も『Woman』も劇中で田中裕子が演じる役を指していた。この『anone』に至っては、そのまんま林田亜乃音(あのね)という名前から取られている。

 ハリカが自分の話を「あのね」と語りかけるような、童話的な親しみやすさも念頭にあるのだろう。今までのタイトルの頭文字が大文字で、『Mother』(母)や『Woman』(女)といった大きなテーマを語ろうという意思が前面に出ていたのに対し、『anone』という小文字だけで綴られた優しくて弱々しいタイトルは、大きなテーマではなく、小さいけれど個人個人にとって大切な物語を、か細い声で語りかけようとしているように感じる。

 第2話では青羽るい子(小林聡美)が人間社会を「ドミノ倒し」に例える場面が出てくるが、この話自体が、社会の枠組みから外れてしまった人々の小さなつながりの連鎖をドミノ倒しのように描いている。

 そして、第1話でハリカの記憶を通して描かれたニセモノというテーマは、100円玉を川に捨てたり、印刷した偽札をハサミで切ったり燃やしたりするという「お金」の描写を通して描かれる。

 岩井俊二の映画『スワロウテイル』でも偽札が重要なアイテムとして登場し、物語終盤でストリートチルドレンの子供たちがお札に穴を開けたり破いたりする場面が描かれていたが、物語とわかっていてもお金を破いたり燃やしたりする場面を見ると、すごく背徳感を感じると同時に、どこか清々しい気持ちになる。これはなんだかんだ言って、私たちがお金を神様のような絶対的な存在だと信じているからだろう。国が発行しているからこそ認められているが、実際は単なる紙切れじゃないか。

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