西田敏行、演技のギャップが凄すぎる 『アウトレイジ』悪人役と『ナミヤ雑貨店』善人役
多くの人々が待ち焦がれていた北野武監督の最新作にして、『アウトレイジ』シリーズ完結編である『アウトレイジ 最終章』。日本が誇る名優たちが一同に会し、圧倒的な熱量で解き放たれた一作だ。主演であるビートたけしと並び、映画の顔として登場する西田敏行が、やはり突出して恐ろしい。これに対し、先に封切られた『ナミヤ雑貨店の奇跡』で見せる、人間の温かさ。そのあまりの振れ幅の大きさには、見ていて人間不信に陥りそうになった。
これまでどれだけ多くの人々が、西田敏行という俳優に笑わされ、泣かされたことか。1967年にデビューし、今年で芸歴50周年を迎える、言わずもがな日本の俳優のトップランカーである。『はなれ瞽女おりん』(1977)や『敦煌』(1988)といった文芸作品の映画化で培ってきた存在感。『釣りバカ日誌』(1988 - 2009)に象徴される、シリーズものでの持続力。三谷幸喜作品でのコミカル一直線のキャラクター。数多く出演してきたNHK大河ドラマ。歌もうたい、バラエティ番組で司会も務める、まさに稀代のエンターテイナーであり、国民的俳優といって誰も異論はないだろう。
『ナミヤ雑貨店の奇跡』ではナミヤ雑貨店のシャッターの郵便受けに届く、すべての悩み相談に答えるという店主を好演。温かい眼差しと柔らかい語りで、相談してくる人々を優しく包み込むキャラクターは、世の人々が西田敏行という人物に対して抱くイメージと、大きく重なった。ウィットに富んだ回答の数々もまた、西田本人が口にしそうなものだ。スクリーン越しに彼の笑顔を目にしただけで、その声を耳にしただけで、思わず胸がいっぱいになり涙腺が緩んでしまう。
一方、『アウトレイジ ビヨンド』に引き続き出演している『アウトレイジ 最終章』の西田は真逆をいく。シリーズ前2作では、俳優たちの“イイ顔”が次々と活写され、激しい罵り合いとともに一触即発の緊張感が画面に漲るなか、スクリーンに映し出される西田の顔面の迫力と、前のめりでまくし立てるセリフ回しはトラウマものであった。5年後を描いた『アウトレイジ 最終章』、西田の眉間にシワが寄り、そこから一声発されるだけで、劇中ヤクザも観客も、恐くて楽しい『アウトレイジ』ワールドに引き込まれる。