“全員主役”はまるでウータン・クラン!? ヒップホップ文脈で読み解く『HiGH&LOW』の真意

 EXILE HIROが企画・プロデュースを務めた『HiGH&LOW THE MOVIE 2/END OF SKY』が、現在公開中だ。『HiGH&LOW』は、リアルとファンタジーがコラボした世界観で、映画、ドラマ、動画配信、コミック、SNS、アルバム、ライブなど、あらゆるメディアを巻き込んだ総合エンタテインメント・プロジェクト。劇場映画第三弾となった本作には、これまでシリーズ作に出演してきた俳優陣が続投するほか、新キャストとして、EXILE TRIBE のメンバー小林直己、NAOTO、関口メンディーらが名を連ねている。

 “全員主役”というコンセプトのもと、複雑な人間関係を華麗なアクションとともに描き出す本作は、その独自性から幅広い層のファンを多数生み出しているが、その方法論の根底には、ヒップホップ・カルチャーの影響が色濃くあるという。

 ポップ・カルチャーへの造詣が深く、『AKB商法とは何だったのか』や『一〇年代文化論』といった著作で知られるライター・物語評論家のさやわか氏に、本作とヒップホップ・カルチャーの関係性について話を聞いた。

「『HiGH&LOW』シリーズは、EXILE TRIBEという集合体の関係性を、フィクションとして表現した物語で、これまで彼らがMVでやってきたことの延長線上にあるものだと考えています。基調となっているのは、いわゆる不良漫画やヤクザ映画的な世界観ですが、“全員主人公”と謳っている通り、登場人物それぞれに過去があり、個性が際立っているのが特徴で、そこが従来の作品と異なっています。しかも、作品を追うごとにそれぞれのキャラクターが肉付けされていって、出演陣も自ら“キャラを立てた”演技をするようになっている。たくさんのキャラクターを登場させ、その背景や関係性を見せて、頂点を競わせるのは、近年のスマホ向けゲームなどにも見られる構造で、そういう意味ではかなりゲーム的な作品ともいえるかもしれません。

 映画の作りとしてはかなり独特ですが、しかしEXILEをはじめ、彼らが影響を受けたと公言するヒップホップ・カルチャーの文脈から考えると、その真意が見えてきます。というのも、アメリカのヒップホップ・レーベルやクルーでは、まさに『HiGH&LOW』と同じようにメンバーそれぞれにフィクショナルなキャラクター性を与えて『みんなすごい奴らなんだよ!』と売り出していくことが、たくさん行われてきたからです。たとえばウータン・クランのメンバーであるRZAは、Gravediggaz(墓掘り人)という別名義のユニットで、自ら『死体発掘人』と名乗って物騒なトピックスをラップにしたりしています。もちろん、彼らが言っていることは大体フィクションなんですけれど、リスナーたちはそれも含めて楽しんでいるんですよね。レーベルやクルーごとに、 必ずしも悪ぶったり“リアル”なばかりでない、個性的でフィクショナルなキャラが次々と登場するのが本来のヒップホップの魅力なんです。

 『HiGH&LOW』シリーズでは、特にAKIRAさん演じる琥珀が極端な性格のキャラクターとして描かれていますが、製作陣は、そういう風に振り切った方が絶対に面白いし、ファンが好きになってくれるとわかってやっているのだと思います。そして、全員のキャラクターをしっかり打ち出すことで、EXILE TRIBEというコミュニティそのものを魅力的に見せることにも成功している。先ほど例に挙げたウータン・クランや、最近で言えばタイラー・ザ・クリエイター率いるオッド・フューチャーなどのヒップホップ・クルーがやっていることを、映画という枠組みの中で実現しているといえるのではないでしょうか」

 現在公開中の『HiGH&LOW THE MOVIE 2 / END OF SKY』では、そうした傾向を踏まえつつも、さらに新しい試みも見られると、さやわか氏は続ける。

「前作の『HiGH&LOW THE RED RAIN』で雨宮兄弟の過去が描かれ、現在までに至る物語が補完されたことで、同シリーズはひとつのサーガとしての様相を示してきました。『HiGH&LOW THE MOVIE 2 / END OF SKY』では、さらにSWORD地区の外の組織を描くことで、世界観を拡大しています。

 また、前作までで、同シリーズのどんな要素が観客に好評だったのかを踏まえたうえで、より幅広い層が楽しめる作りにしているのもポイント。たとえば、作中に謎のUSBが登場しますが、あれはスパイ映画などにおける“マクガフィン”と呼ばれるものです。話を引っ張るために用いられる映画的な仕掛けであり、物語の構造的に言えば、中身はなんでも良いんですよね。要は、そういった“映画のお約束”をきちんと押さえていて、はじめて同シリーズに触れる観客にとっても見やすくなっている。

 観客とのコール&レスポンスがしっかりできている感じで、彼らがもともとパフォーマンス集団だからこその映画作りといえるのではないでしょうか。そういう意味では、2.5次元舞台などの作り方とも近いものがあります。ショウビジネスとして、すごく正しい方法論だし、それもまたヒップホップ的な姿勢ですよね」

 さらに、LDHが同作を成功させたのは、日本の音楽シーンや芸能界においても画期的な出来事で、今後もさらなる可能性があると、さやわか氏は指摘する。

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