“死体のオナラでジェットスキー”はどう生まれた? 『スイス・アーミー・マン』監督インタビュー

 『ハリー・ポッター』シリーズのダニエル・ラドクリフが死体役で主演を務める映画『スイス・アーミー・マン』が9月22日より公開された。本作では、遭難して無人島に行き着いた青年ハンクが、様々な便利機能を持った死体メニーと出会い、力を合わせながら故郷に帰ろうとする模様が描かれる。リアルサウンド映画部では、MVディレクターを経て、本作で映画監督デビューを果たしたダニエルズ(ダニエル・シャイナート&ダニエル・クワン)の2人にインタビューを行い、独創的なアイデアが生まれた背景や、撮影時のダニエル・ラドクリフのエピソード、そしてコンビで監督を務めることのメリットなどについて話を訊いた。

シャイナート「実写ではできないようなことをあえて実写でやりたい」

ーー今回の作品のこの非常に独創的なストーリーのアイデアはどのようにして生まれたのでしょうか。

(左から)ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート

ダニエル・シャイナート(以下、シャイナート):これは実際にあった話なんだよ! というのは冗談で(笑)、僕たちはMVを作っていた時代、すごくバカなことをやりたくて、いろいろなことを試していたんだ。当時は自分たちで「これはかなりイケてるな」と思いながら作っていたんだけど、数ヶ月経つと何だか恥ずかしい気持ちになってしまうことが多かった。そこから何で自分たちはバカなことをやりたいんだろうと模索し始めて、そこで気がついたのが、僕たちが考えるジョークは自分たちの深層心理だということだった。だから『スイス・アーミー・マン』は、ある意味で僕たちのセラピー的な作品でもある。自分たちの最もバカなアイデアを何年もかけて理解しようとした結果なんだ。最初は“オナラをする死体”というひとつのジョークから始まったんだけど、それが恥ずかしいという気持ちや、生と死というテーマを持った作品になっていったんだ。

ダニエル・クワン(以下、クワン):人前でオナラができなかったり、トイレに行けなかったりするところからきているんだよね。そういう意味では、実体験から生まれた作品とも言えるんじゃないかな。

ーーDJスネーク&リル・ジョンの「Turn Down for What」やフォスター・ザ・ピープルの「Houdini」など、過去にあなたたちが制作してきたMVと今回の作品には、共通する部分もありますよね。

シャイナート:これまで僕たちが制作してきたMVでの経験は、今回の作品にいろいろな形で反映されていると思うよ。『スイス・アーミー・マン』の脚本は2011年頃から書き始めたんだけど、それ以降に撮ったMVは、ある意味この作品のアイデアをテストしているようなところもあったんだ。たくさんのバンドを騙してね(笑)。体を使ったギャグや森の中での撮影……。

クワン:スタントや火を使った撮影もそうだね。学校やコースとかではなくて、実際に現場で学べたことも大きかったね。

シャイナート:脚本をより良いものにするための作業でもあったんだ。視覚的なギャグで終わらせるのではなく、それ以上のものがある作品にしたかったから、いろいろなことを試行錯誤するという意味で、MVの経験は非常にいい形で映画制作に結びついたと思うよ。

ーーということは、MVのディレクターをしていた頃からずっと映画を撮ろうと考えていたんですね。

シャイナート:そうなんだ。僕たちはコラボレーションを始めた2009年頃から、一緒に長編映画を作りたいとずっと考えていたよ。ただ、初長編監督作をどんな作品にするかはずっと模索し続けていて、実は『スイス・アーミー・マン』の前に別の脚本も書いていたんだけど、結果的に『スイス・アーミー・マン』をやることにしたんだ。より僕たち自身がどういう人物かを表している作品だと感じたからね。

ーーアメリカでMVディレクター出身の映画監督というと、デヴィッド・フィンチャーやスパイク・ジョーンズなどがいますが、彼らから影響を受けたりもしているんでしょうか?

クワン:まさに影響を受けているよ。僕たちはMVディレクターから映画監督になった素晴らしい先人たちの足跡を追っているようなところがあるから、デヴィッド・フィンチャーやスパイク・ジョーンズはもちろん、ミシェル・ゴンドリーやクリス・カニンガムからも大きな影響を受けているよ。彼らはMVでの経験、そしてMVが与えられる経験というものを、映画を通してさらに大きなものに転化させることに成功しているからね。僕たちのこの作品も、彼らが生み出してきたような素晴らしい作品になればいいなと思っているし、これから作る作品も同じような気持ちで作っていきたいね。

シャイナート:それにアニメーションからも大きなインスピレーションを受けているんだ。僕たちは宮崎駿監督が大好きで、彼の全作品から大きな影響を受けているんだけど、彼のような美しいアニメーションを撮る監督、それに自分たちの周りにいる、インディーズでアニメーションを作っている友人たちからもインスパイアされているよ。「これは実写では不可能だ」と思われるようなことを、あえて実写でやってみたいという気持ちを僕たちは強く持っているんだ。例えば『スイス・アーミー・マン』でいうと、冒頭の死体ジェットスキーなんかがそうだね(笑)。

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