長澤まさみ、“感情を失った”演技のすごみーー『散歩する侵略者』の衝撃的な輝き
そういった奔放で、限りなくコメディエンヌに近い演技で開花した彼女ではあるが、今回の『散歩する侵略者』では違った表情を見せる。くすりと笑えるようなセリフはありながらも、初期の頃のような真面目なキャラクターの面影を確かに残していた。もちろんそれだけでは、また定型的な長澤まさみに填めてきたのかと思ってしまうわけだが、決してそんなことはない。
感情の喪失した松田龍平演じる夫との掛け合いのバランスを取るほどの感情的な芝居で進め、終盤で彼女は“愛の概念”を失うことで感情のすべてを失うという立場の逆転。表情のみで語り、余韻を的確に残すことで、数年前の彼女とはまったく違った余裕が窺えるのだ。すっかり彼女の演技は、見えない鎖から解き放たれたように思える。
■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter
■公開情報
『散歩する侵略者』
全国公開中
監督:黒沢清
原作:前川知大「散歩する侵略者」
脚本:田中幸子、黒沢清
出演:長澤まさみ、松田龍平、高杉真宙、恒松祐里、長谷川博己ほか
製作:『散歩する侵略者』製作委員会
配給:松竹/日活
(c)2017『散歩する侵略者』製作委員会
公式サイト:sanpo-movie.jp