“爆音上映”の仕掛け人・樋口泰人が語る、その醍醐味 「観客と一緒に、映画を作り直す感覚」
最高級の音響設備をもつYCAM
――ところでYCAMは、2013年から樋口さんが音響監修を務める“爆音映画祭”を毎夏開催していますが、どういう経緯で?
杉原:僕が、渋谷のオーディトリウムという映画館を辞めて、YCAMに来たのが2014年なので、僕の前任者の話になるのですが……2013年は、ちょうどYCAMが10周年のタイミングだったんです。で、そのときにいろいろ大きなイベントがあって、映画でも何か目玉となるような企画をやろうって言って出てきたのが、“爆音映画祭”だったと思います。ちょうどその年、YCAMで短編映画のコンペティションをやったんですけど、そのときの審査員のひとりが樋口さんだったんですよね。多分、そういう繋がりもあったんじゃないかな。
樋口:確か、そんな感じでしたね(笑)。
――YCAMは、とにかく音響設備が素晴らしいと評判ですが、樋口さんから見て、どのあたりが優れている?
樋口:そもそも、“爆音映画祭”の会場となるYCAMの“スタジオA”というのは、映画館ではないんです。だから、逆に言うと、レイアウトが自由なんですよ。そして、自由なレイアウトに対応できる機材がそろっている。確か、ライブをやろうとすると、いくつかセットができるくらい、機材があるんですよね?
杉原:そうですね。大体2セット作れるくらいの機材がそろっています。去年やった爆音映画祭のライブでは、音響をダブルでセットしましたから。映画用の音響とは別に、ライブ用のセッティングをスクリーンの後ろに用意して、映画の上映が終わったら、それを前に持ってくる。実は、そんなこともやっているんですよね。
樋口:映画館ではないがゆえに、スピーカーを置く場所とかが、かなり自由。わかりやすいところで、スピーカーを床と天井にも設置していますよって言っているんですけど、ポイントなのは、スクリーンの上にもスピーカーを吊るしてあることで。スクリーンの脇と下に、L・C・Rって置いてあるんですけど、実はスクリーンの上にも、L・C・Rのスピーカーが置いてあって。それによって、会場の空間全体の音を調整できるんです。普通の映画館だと、特に、今のシネコンとかだと、スクリーンのサイズを大きくするために、スクリーン脇にもスピーカーを置けなかったりする。でも、YCAMは、そうではないというか。そうではない上に、いろんなことができる。そうやって二重、三重に手が尽くせるんですよね。
――今のシネコンは、だいぶ音響面を重視しているようですが、YCAMはある意味、それ以上の環境であると。
樋口:そうですね。この10数年のあいだに、スピーカーとか機材的なことに関しては、かなり技術的な革新があって。いわゆる箱型のスピーカーから、ラインアレイっていう、縦に広がらず線的に音が真っ直ぐ出るスピーカーを、角度をつけて組み合わせることによって、各座席をピンポイントで狙って音を出すことができるようになったんです。YCAMは、かなり早い段階から、そのラインアレイ・スピーカーを導入していて。今は、川崎のチネチッタとか、立川のシネマシティにも導入されていますけど。ただ、他のシネコンとかでは、まだそこまではいってないですよね。天井にスピーカーが入った“ドルビーアトモス”とか、いろいろ新しい規格はありますけど、映画館によってスピーカーの数が違ったりするので。逆に言うと、映画を作るほうも難しいですよね。場所によって、機材が違うわけですから。となると、やっぱりその場でその場で、映画に合わせて音を調整するのがいちばんってことになる。だから、“爆音映画祭”の場合は、基本的にその場所に行って、実際にそこの音を聴いて、それからどうしようか考える感じなんです。