大根仁『ハロー張りネズミ』は最高の探偵ドラマだ ジャンルレスな作風の魅力
最高の探偵ドラマが始まった。金曜ドラマ『ハロー張りネズミ』。弘兼憲史原作で、深夜ドラマ『まほろ駅前番外地』、『リバースエッジ大川端探偵社』、映画では『恋の渦』『SCOOP!』などを手がけてきた大根仁による脚本・演出、主人公は瑛太と森田剛演じる探偵2人組だなんて、最高に決まっている。
洒脱な音楽、あかつか探偵事務所メンバーの軽妙な掛け合い、とりわけ麗しい深田恭子、初回のグレ(森田剛)が『あぶデカ』を模倣するシーンはもちろん、今までのあらゆるバディもの、探偵ものを思い起こさせる場面の数々は、探偵ドラマへの愛そのものであり、それだけで金曜日の夜に、なんだか快く酔ってしまうような気分にさせられるのだ。今日の放送で3話目となる『ハロー張りネズミ』。1話は人情もの、2話そして今回の3話は瑛太の語りが言うところの前後編でお送りする「アクション、爆破、ラブアンドサスペンス」と、企業や大物政治家が絡んだ大きな事件に立ち向かうガッツリサスペンスと、どうやらジャンルを越えていろんな味が楽しめるらしい。
ジャンルレスなドラマでも変わらないものはある。瑛太演じる七瀬五郎と森田剛演じるグレ、彼らを見守る頼れる所長・山口智子、ミステリアスで美しい蘭子を演じる深田恭子、2話から登場のリリー・フランキー演じる南の胡散臭さなど、キャラクターの魅力はもちろん、ジャンルの違う2話から垣間見られるのは、事件の鍵を握る人々の「家族」の物語である。
1話では、伊藤淳史演じる、交通事故で娘を亡くし、娘の死を知らない瀕死の妻のために、娘と似た女の子を依頼してきた父親・川田の姿が描かれた。五郎とグレは川田のために、本物の子役を調達しようとしたりするがうまくいかず、偶然見つけた、亡くなった娘とよく似た女の子、児童養護施設で生活する遥(三本采香)を必死に説得し、母親の死の間際に「娘」に会わせるという川田の望みを叶える。川田はその後、娘とそっくりの遥を引き取り、一緒に生活を始め、グレが言うように「うまいことまとまった」わけである。
だが、孤独な少女・遥の強い眼差しがこの「泣ける人情話」に一石を投じる。1話で難しい依頼に当惑する探偵事務所の3人が、偶然つけたテレビに映るドラマの再放送に夢中になるシーンがあった。ドラマ『家なき子』ならぬ『米なき子』である。そしてテレビ画面の中の女の子と共に「同情するなら米をくれ」と連呼するのだが、その後登場する、過酷すぎる過去を持ち、誰も寄せ付けない遥の眼差しは、テレビ画面の女の子、さらに言えばその元である『家なき子』の安達祐実に繋がる気迫がある。彼女は、五郎の依頼を引き受け、川田の娘と同じように髪を切り、バレエの衣装を着て、初対面の「母親」を前に「父親」と共に「ママ死なないで」と泣き、川田に引き取られた後は、川田の亡き娘と同じようにバレエのレッスンに通う。それは山口智子演じる所長が言うところの「亡くなった娘の代用品」という役柄を受け入れた上での迫真の演技なのか、それとも母親が死んだ時に一緒に死にたかったと言う彼女の母親への愛が、初対面の母親の死を前にリンクしたのか、それは定かではない。だが、五郎の「自分が誰にも必要とされてないと思っているんだとしたら、それは絶対に違う。遥ちゃんには絶対生まれてきた意味がある」という言葉、そして川田の「ありがとう」に、自分の未来に少しの希望も見出せなかった彼女の心が動いたのは確かだろう。