巨匠・倉本聰は今こそ再評価すべきだ 『やすらぎの郷』に宿る作家性の源泉

 そして1981年に『北の国から』を執筆。二人の子どもと共に北海道の富良野に帰郷した黒板五郎(田中邦衛)が丸太小屋で暮らす姿を描いた本作は話題を呼び、本放送終了後も息子の純(吉岡秀隆)と娘の蛍(中嶋朋子)が思春期を経て成長していく姿を追ったスペシャルドラマが2002年まで作られた。

 おそらく、多くの人にとっては倉本聰=『北の国から』という認識だろう。現在、「北の国から DVDマガジン」(講談社)が定期刊行されているのだが、ブックレットに記載された人物相関図や舞台となる富良野市麓郷地区のロケ地マップを見ていると作品世界の豊潤さに圧倒される。さながら富良野サーガとでも言うような作品世界は、後に深夜アニメで盛り上がる聖地巡礼ブームも先取りしており、番組が終わってから現在に至るまで富良野には『北の国から』目当ての観光客が今でも多数訪れている。その意味で、フィクションでありながら強烈なドキュメンタリー性を帯びた作品だ。

 最後の作品となった『北の国から 2002遺言』から15年が過ぎているため、エコロジー思想と、家族愛を押し付ける説教臭い作品という先入観から「食わず嫌い」の方も多いかもしれないが、大自然をとらえた美しい映像と人間の弱さを愛おしいものとして描ききった長編大河ドラマは、テレビドラマの到達点といっても過言ではないだろう。

 『北の国から』 を筆頭に倉本聰には数々の傑作が存在する。『やすらぎの郷』人気が盛り上がることで、倉本聰の過去作の再評価が起きることを期待している。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
『やすらぎの郷』
テレビ朝日にて、毎週月〜金曜日 12:30〜12:50放送
出演:石坂浩二、浅丘ルリ子、有馬稲子、加賀まりこ、草刈民代、五月みどり、常盤貴子、名高達男、野際陽子、藤竜也、風吹ジュン、松岡茉優、ミッキー・カーチス、八千草薫、山本圭
作:倉本聰
公式サイト:http://www.tv-asahi.co.jp/yasuraginosato/

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