EXO D.O.は“演技ドル”を越えていく 『あの日、兄貴が灯した光』の心揺さぶる演技

 もちろん、それ以外にもふたりの距離が近づく場面がちりばめられている。サウナに行って背中を流しているときの会話で、お互いの過去を理解しあえるようになっていくシーンでは、日本も韓国も変わらないのだなと思えた。

 ふたりの距離が近づいていくからこそ、この映画の終わりは悲しく涙が止まらない。どれだけ泣けるかは、この兄弟の心の距離の変化をどれだけ見ていたかにかかっているのかもしれない。

 この映画の脚本は、韓国で1200万人の観客動員を記録した『7番房の奇跡』のユ・ヨンアが書き下ろしている。『7番房』を見た人ならわかると思うが、ウェルメイドで安定したストーリー展開を素直な気持ちで追いかけてさえいれば、必ず泣かせてくれるのは『あの日、兄貴が灯した光』も同じである。

 その分、なんとなく、ストーリーの先が見えてしまうような部分はあるが、それでも終盤のD.O.の心の底からの衝動を見ていると、わかってはいても、スイッチを押されたように感情が込みあがってしまう、この映画はそんな映画なのだ。

 D.O.は演技を始めてから、難役を演じることが多かった。そのことも、彼を演技ドルたらしめていた理由のひとつと言える。今回も彼は目が見えなくなり、兄と再会し関係性を取り戻し、そして光=希望を得るまでを演じた。これも、やはり難しい役ではあったと思う。しかし、映画を見終わってみると、難しい役を演じきったと意識するというよりも、ドゥシクとドゥヨンというふたりの生きている姿を見たということのほうが残った。いつか、D.O.は、演技ドルという呼び名すらも必要のない俳優になるのだろう。

■西森路代
ライター。1972年生まれ。大学卒業後、地方テレビ局のOLを経て上京。派遣、編集プロダクション、ラジオディレクターを経てフリーランスライターに。アジアのエンターテイメントと女子、人気について主に執筆。共著に「女子会2.0」がある。また、TBS RADIO 文化系トークラジオ Lifeにも出演している。

■公開情報
『あの日、兄貴が灯した光』
公開中
出演:チョ・ジョンソク、D.O.(EXO)、パク・シネほか
監督:クォン・スギョン
脚本:ユ・ヨンア
2016/韓国/韓国語/110分/日本語字幕:本田恵子
配給:CJ Entertainment Japan
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