劇場公開されない作品には受賞価値なし? カンヌ国際映画祭“Netflix論争”当事者たちの見解

 もう1つの作品、ノア・バームバック監督の『The Meyerowitz Stories(原題)』は、主演のアダム・サンドラーの演技が注目を集めた。それぞれがフラストレーションを抱える複雑な家庭の中で、サンドラーはダスティン・ホフマン演じる“自分は天才だと思っているのに誰にも認めてもらえない芸術家”の息子を熱演している。彼の得意な“負け犬”の役で再び実力を見せつけた。『パンチドランク・ラブ』以来15年ぶりとなる会心の演技に、スタンディング・オベーションが4分間鳴り止まなかったそうだ。近年Netflixと契約を結び、3本の主演作を製作していたサンドラーだが、そのうちの1本、『The Ridiculous 6(原題)』は、映画批評家による批評サイト「ロッテン・トマト」で非常に稀な“0%”(ポジティブな批評の総計)の評価を受け、主演俳優としては低迷していた。思いがけない当たり役に批評家たちも「認めたくないが、冗談ではない。彼の演技は最高だった」と感動しきり。この作品の配信時期は明らかになっていない。

 そもそもの当事者であるNetflixの最高コンテンツ責任者テッド・サランドスは、『Variety』誌の取材で、ルールが変わる来年のカンヌ国際映画祭に再び出品するかと問われたところ、難色を示した。賞レースから外れる部門への出品は「興味を引かれないし、世界の他の映画祭に対する戦略も変わってきてしまう…」という。Netflix作品は、今までにヴェネツィア、トロントなどのメジャーな映画祭に出品してきた。「私たちの映画やフィルムメーカーに、配給方法が原因で締め出されてしまうことは望んでいない」と困惑するのも当然かもしれない。また、フランスでは法律に基づいた劇場公開から3年経たないとストリーミング配信ができないという厳しい制約も、カンヌ国際映画祭からNetflixを遠ざける要因の1つになるだろう。「カンヌはスキャンダルが好きだから! これは『Netflix論争』って呼ばれているんだよ」とサンドロスはジョークを放った。おそらくNetflixにとって今年が最初で最後になるカンヌ国際映画祭。2作品のいずれかがパルムドールを受賞する可能性はゼロか…?

■賀来比呂美
ライター/編集者。大学で映画学を専攻。海外セレブ情報誌の編集者を経て、現在、「シネマカフェ」、「Petomorrow」などで執筆。好きな監督はウェス・アンダーソン、好きなものは映画、海外ドラマ、お酒、犬猫。

■配信情報
Netflixオリジナル映画『オクジャ/okja』
6月28日(水)より全世界同時オンラインストリーミング
監督:ポン・ジュノ
脚本:ポン・ジュノ、ジョン・ロンソン
出演:ティルダ・スウィントン、ジェイク・ギレンホール、ポール・ダノ、ジャンカルロ・エスポジート、スティーヴン・ユァン、リリー・コリンズ、デヴォン・ボスティック、ダニエル・ヘンシュオール、シャーリー・ヘンダーソン、ピョン・ヒボン
製作:プランBエンターテインメント、ルイス・ピクチャーズ、ケイト・ストリート・ピクチャー・カンパニー
製作協力:Netflix
Netflix:https://www.netflix.com/jp/
(c)Bronx (Paris). Photo: Claudia Cardinale (c)Archivio Cameraphoto Epoche/Getty Images

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