『パーソナル・ショッパー』オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー「映画の本当の観客は若者だ」

「映画には“答え”ではなく“質問”が必要」

 

ーージュリット・ビノシュもそうですが、主演女優はあなたの作品において非常に重要な役割を果たす存在だと思います。今回、ハリウッドで活躍する若きスター女優でもあるクリステン・スチュワートを、前作とは違った主役というポジションで迎えたことで、映画作りにおいて何か新しい発見はありましたか?

アサイヤス:僕は映画作りというものは、若者に向けてするべきだと考えている。映画の本当の観客は若者だと思うんだ。若い観客たちとのつながりは、映画作りにおいて失ってはいけないとても重要なものなのに、今のインディペンデント映画の世界では、シニアに向けた作品が多くなってしまっている。だから映画の観客がどんどん失われてしまっているんだ。僕とクリステンは世代こそ違うけれど、いろんなものを共有している。僕と彼女は似ているところがたくさんあるんだ。彼女は僕と一緒に仕事をすることで、ヨーロッパのインディーズシーンのインスピレーションを感じられる自由な活躍の場を得ることができるし、逆に僕は彼女と一緒に仕事をすることによって、彼女の世代の若者たちとつながることができる。クリステンが今の時代精神に僕を繋げてくれるからこそ、僕は彼女に対して映画作りにおいての自由を受け渡したんだ。彼女は、何が正しくて何が正しくないかがきちんとわかる、直感に優れている人間。だから僕はクリステンのことを単なるキャストではなく、一緒に映画を作ったクリエイターだと思っているよ。

 

ーー昨年のカンヌ国際映画祭であなた自身も発言していたように、今回の作品はあなたにとってもこれまでの型にはまらないような「挑戦的な作品」になったのでは?

アサイヤス:僕は、芸術とは観客との対話だと思っている。映画を作るたびにその考えが強くなっていて、映画は常に観客に何かを問いかけるものでなければいけないと思うんだ。映画には“答え”ではなく“質問”が必要なんだとね。答えを全部明らかにしてくれたほうがスッキリするという観客がいるのももちろんわかるけれど、それはアートとして決して満足できるものではない。確かにカンヌではこの作品を「挑戦的」と言ったけれど、正直、僕はこの作品のことを挑戦的だとは思っていない。ストーリーテリングにおいて、コラージュや夢の世界に近いロジックを使っているから、一見難しく見えてしまうかもしれないけれど、物語としては、すごくシンプルだと思うんだ。僕にとっては、マーベル映画のような超大作のほうが挑戦的だと思えるよ(笑)。

 

ーーホラー的な要素やストーリーテリングの部分においては、黒沢清監督の作品とものすごく近いものを感じました。

アサイヤス:友人でもある彼の作品にはすごく共感できるし、僕は彼の作品が大好きだ。『パーソナル・ショッパー』も彼の作品の多くも、現実とファンタジーの要素が循環している。それはある意味、そもそも人間が現実と向き合うために使う手法でもある。我々のいる現実こそが、世界をどう体験するのかと想像力の狭間にあるわけなんだ。だからこそ、そのどちらも捉えられている作品は非常に魅力的だと思うし、そういった意味でも、僕自身『パーソナル・ショッパー』と彼の作品には似たところを感じるよ。彼がフランスで撮った『ダゲレオタイプの女』はまだ観ることができていないんだけど、すごく楽しみにしているよ。

(取材・文=宮川翔)

■公開情報
『パーソナル・ショッパー』
TOHOシネマズ 六本木ヒルズほかにて公開中
監督:オリヴィエ・アサイヤス
出演:クリステン・スチュワート、ラース・アイディンガ―、シグリッド・ブアジズ
原題:「Personal Shopper」
配給:東北新社、STAR CHANNEL MOVIES
2016年/フランス映画/英語・フランス語/105分/シネマスコープ/カラー/5.1ch
(c)2016 CG Cinema - VORTEX SUTRA - DETAILFILM - SIRENA FILM - ARTE France CINEMA - ARTE Deutschland / WDR
公式サイト:personalshopper-movie.com

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