70年代アメリカを再現した強烈な臨場感ーーHBO製作『クォーリーと呼ばれた男』の衝撃

　一方、本作には当時の空気を再現したファッション、アンティーク・カー、ミュージックも盛りだくさん。とりわけソウルとブルースは本作の息吹とも言えるもの。とりわけ夭折したソウル歌手オーティス・レディング（1941〜67）の歌声はその随所で聞かれ、第1話のタイトルでもある「You Don't Miss Your Water」を収録した『Otis Blue』も印象的。大ヒットしたこのアルバムのジャケットはドラマを象徴する青色（水のイメージ）を宿しており、映し出された瞬間に意味深な香りを放ってやまない。音楽はかくも時代を描く上で最高の要素となる。本作では他にも、レコーディング・スタジオやライヴ会場などを用いて生音のこぼれ落ちる瞬間を色濃く描き出しているのも特徴的だ。

　これらの時代と社会の状況を横断しながら、殺しのオファーを全うしていく主人公。回を追うごとに謎が少しずつ明かされ、かと思えばまた新たな謎が覆いかぶさる。決して同じことの繰り返しに終始せず、作り手がエピソードごとに新たな描写に挑戦しようとする心意気も、視聴者を引きつけてやまない魅力である。

　果たして運命の流転の中で主人公の心は救われるのか。帰還後に待ち構えていた地獄のような試練を彼は生き抜くことができるのか。「苦心して探し出す」という意味が改めて重くのしかかる。本作の前ではマックも我々も、誰もが等しく答えを探し求める「クォーリー」なのかもしれない。

■牛津厚信
映画ライター。明治大学政治経済学部を卒業後、某映画放送専門局の勤務を経てフリーランスに転身。現在、「映画.com」、「EYESCREAM」、「パーフェクトムービーガイド」など、さまざまな媒体で映画レビュー執筆やインタビュー記事を手掛ける。また、劇場用パンフレットへの寄稿も行っている。Twitter

■放送情報
HBO(R)製作『クォーリーと呼ばれた男』（全8話）
【STAR1 プレミアム　字幕版】
5月15日（月）より毎週月曜23:00ほか
※5月15日（月）は第1話無料放送
【STAR3 吹替専門　二ヵ国語版】
5月17日（水）より毎週月曜23:30ほか
※5月17日（水）は第1話無料放送

原作：マックス・アラン・コリンズ
監督：グレッグ・ヤイタネス
出演：ローガン・マーシャル＝グリーン、ジョディ・バルフォー、デイモン・ヘリマン、ピーター・ミュラン
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