脚本家・演出家/登米裕一の日常的演技論

岡田将生はなぜ“嫌なヤツ”を演じるのか? 若手演出家が『小さな巨人』の芝居を読む

 若手の脚本家・演出家として活躍する登米裕一が、気になる俳優やドラマ・映画について日常的な視点から考察する連載企画。第18回は、TBS日曜劇場『小さな巨人』に出演中の岡田将生について。(編集部)

 TBS日曜劇場『小さな巨人』が、4月16日から始まっています。このドラマは長谷川博己さん(香坂真一郎役)と岡田将生(山田春彦役)さんがメインとなる刑事ドラマで、香坂も山田はどちらもエリート刑事ですが、香坂はたった一度の失態で所轄に飛ばされてしまいます。そんな香坂が、警察内部の確執に挑むという骨太な内容のドラマです。

 長谷川さんは、連続ドラマ『鈴木先生』(2011年/テレビ東京)や映画『シン・ゴジラ』(2016年)でもそうでしたが、信念を持って組織の中で戦う役が似合います。泥にまみれ、汗にまみれても上品に見える長谷川さんだからこそ、今回の役もきっと魅力的に演じきるのでしょう。

 一方、岡田さん演じる山田は、他人を蹴落としてでも出世しようと考えている人間として描かれています。いわゆる“嫌なヤツ”です。『掟上今日子の備忘録』(2015年/日本テレビ)や、『ゆとりですがなにか』(2016年/日本テレビ)などでもそうですが、岡田さんはどちらかと言うと“好青年”を演じてきました。しかし、単に“良い人”というわけではなく、悪い人じゃないけれどちょっとヘタレであったり、残念な人であったりと、つい「頑張れよ」と言いたくなるような、共感できるキャラでした。そういう意味で今回の役は、今までの岡田さんのイメージとは真逆のものです。

 俳優がイメージとは異なる役を演じるということについて、少し考えてみたいと思います。

 知り合いのある俳優の方が、「いつも教頭先生の役のオファーばかりが来る」と言っていました。オファーする側も、教頭先生といえば彼と考えているのでしょう。こうした例は実際に多く、役のイメージがつくのは俳優の宿命とも言われています。そして、一度でも確固たるイメージがつくと、イメージにない役のオファーが来ることはまずないそうです。だからこそ、新しいイメージの役を演じる機会を、俳優たちは大切にします。

 今回、岡田さん演じる山田は常に眉間に皺を寄せ、何かを睨んでいます。柔らかい役の時にはあまり見せなかったアプローチです。高い集中力で怒りを内包し続けていることが、その表情から伝わります。山田が出世にこだわっている理由には、なにか怨念めいた過去があるのではないかと、視聴者の想像力を刺激する芝居です。同時に山田というキャラクターは嫌なヤツではありますが、決して根っからの悪人ではありません。根っこの部分では、香坂を慕っていることが垣間見えます。岡田さんがもともと持っている愛らしさや可愛げのイメージが、真逆のイメージのキャラクターを演じることによって滲み出て、その人物像に奥行きを与えているのです。

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