『午後8時の訪問者』ダルデンヌ兄弟が語る、“引き算でリズム感を生む”演出術

 ジャン=ピエール・ダルデンヌ&リュック・ダルデンヌ監督最新作『午後8時の訪問者』が、4月8日に公開された。『ロゼッタ』(1999年)と『ある子供』(2005年)で2度のカンヌ国際映画祭パルムドールに輝いたダルデンヌ兄弟。最新作となる『午後8時の訪問者』では、救えたかもしれない命を見過ごしてしまった若き女医ジェニーが、亡くなってしまった少女の意外な死の真相にたどり着く模様が、サスペンスタッチに描かれる。リアルサウンド映画部では、本作のプロモーションのために来日したふたりにインタビューを行い、本作がサスペンスタッチになった理由や、“ダルデンヌ兄弟流演出術”について語ってもらった。

「意図してサスペンスを撮ろうとしたわけではない」

 

ーー今回の作品はこれまでのあなたたちの作品に比べて、サスペンス色が強い仕上がりになっているのが非常に印象深かったです。

リュック・ダルデンヌ(以下、リュック):意図してサスペンスを撮ろうとしたわけではないんです。まず、主人公の女医が命を落とした女性の名前を探すところからサスペンスが出てくるわけですが、犯人探しをするのは警察であって、彼女が犯人探しをするわけではありません。罪の意識を感じた彼女は、名前を探すことだけに徹します。その過程でサスペンスのようなことが次々と起こるのですが、それはすべてシナリオを書きながら状況を語ろうとしていくうちに、自然とそうなっていったことなんです。

ーーストーリーの発想はどこからきたんですか?

リュック:制作の背景としては、各国からの移民がヨーロッパに大挙して押し寄せているという事実があります。ただそれが出発点というわけではなく、以前から考えていた“医者を映画に登場させる”というアイデアを実現しようと考えたのが始まりでした。人の命を助けたり、死なないように治療したりすることが医者の使命ですが、その使命に反するようなことが起こってしまい、ものすごく責任感を感じた医者がいたらどうだろうというところから物語が生まれたのです。

 

ーーマリオン・コティヤールが主演を務めた前作の『サンドラの週末』に続いて、今作も女性が主人公ですね。その医者が女医であることに必然性はあったのでしょうか?

ジャン=ピエール・ダルデンヌ(以下、ジャン=ピエール):女性でないといけないと思ったわけではありません。『サンドラの週末』の場合は、まず初めにマリオン・コティヤールと一緒にやりたいと思ったところからスタートしていましたが、今回は最初から女医という設定にしていました。ただ、最初からこういうことを考えていたわけではありませんが、いまの雇用の状況を見ると、どんどん仕事を見つけるのが難しくなっています。特に労働市場では、男性でさえ仕事を見つけるのが難しいので、女性はより大変だと言えます。なので、結果的にそういった社会的背景が取り入れられているのも事実です。

ーー主人公の女医ジェニー役にアデル・エネルを起用した理由は?

リュック:当初、主人公の女医はもう少し年上の女性を想定していたんです。でもアデルと会って、ぜひこの人とやりたいと思ったんです。なので、シナリオも彼女のためにもう一度書き直しました。アデルはとても存在感がある女優。その表情を見ると、この人になら何でも話せると思えるような瞳を持っていたんです。

ジャン=ピエール:役者にはそれぞれ異なる存在感があるものです。他の役者に関しても言えることですが、アデルが才能のある役者だということは間違いありません。私たちは、信頼の置ける彼女の純粋無垢な表情に惹かれたのです。

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