姫乃たまのウワサの濡れ場評013『お嬢さん』
“少女性”と“不自由さ”から生まれる官能ーー姫乃たまが『お嬢さん』のフェティシズムを考える
それなので、彼女達がポルノ女優並みに激しく絡み合う映像もあるのですが、最も官能的に感じられたのは、侍女がお嬢さんを入浴させるシーンでした。どう見ても少女のような風貌の侍女が、部屋の真ん中に置かれた猫足のバスタブに、美しい大人の女であるお嬢さんを入浴させながら、「お嬢様は私の赤ちゃんです」と声をかける姿は、何も起きていないのにしっとりとした官能に満ちています。
お嬢さんはバスタブの中で棒付きのキャンディーを舐めながら、少しだけ不服そうに奥の方の歯が尖っていて内頬の肉が裂けていることを訴えます。たったそれだけのことで、画面には映っていないお嬢さんのその内頬が、裂けたまま赤く濡れていることがありありと伝わってくるようで、頭が痺れます。それに比べれば、侍女がヤスリをはめた指をお嬢さんの口の奥に入れて、尖った歯をいつまでも削っている姿が、どれだけわかりやすい表現であり、私を恍惚とさせたかは言うまでもありません。
彼女達はその後も、しばしば少女性と不自由さの絡み合う行為に没頭します。たとえば、「お嬢さんごっこ」です。部屋で同じ髪型とメイクにして、コルセットを締め合ったり、重そうなアクセサリーを身につけたり、異様にボタンの多いドレスをじりじりと着せたり脱がしたりするのです。赤ちゃんのようなお嬢さんと、少女のような侍女が、ふたりで。
しかし、映画はただ耽美なだけでも、重苦しいだけでもなく、時にやや滑稽に軽快に進んでいきます。お嬢さんに「男性がお嬢さんに求めてること」を教えているうちに、本気で貪り始めてしまった侍女の表情を、なんとお嬢さんの股間視点で映し出すのです。快楽に没頭している人特有の、必死さと滑稽さがないまぜになった顔で、舌を突きだした侍女の顔が大写しになります。
また、滑稽で軽快なのは、彼女達を取り巻く男性達も同じです。彼女達の少女性が高いほど、大人の男達の滑稽さが際立ちます。女が痛がっている時と、気持ちいい時の声も聞き分けられないような男達が、彼女達に翻弄される様は可愛らしく、「全員善人」ではないですが、誰のことも憎めない映画であります。
■姫乃たま(ひめの たま)
地下アイドル/ライター。1993年2月12日、下北沢生まれ、エロ本育ち。アイドルファンよりも、生きるのが苦手な人へ向けて活動している、地下アイドル界の隙間産業。16才よりフリーランスで地下アイドル活動を始め、ライブイベントへの出演を軸足に置きながら、文筆業も営む。そのほか司会、DJとしても活動。フルアルバムに『僕とジョルジュ』があり、著書に『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』(サイゾー社)がある。
ウェブサイト ■ https://himeeeno.wixsite.com/tama
Twitter ● https://twitter.com/Himeeeno
■公開情報
『お嬢さん』
公開中
監督:パク・チャヌク
原作:サラ・ウォーターズ「荊の城」(創元推理文庫)
キャスト:キム・テリ、キム・ミニ、ハ・ジョンウ、チョ・ジヌン
配給:ファントム・フィルム
2016年/韓国/145分/シネマスコープ/5.1ch/R-18指定
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