吉岡里帆、「人生、チョロかった!」のインパクト 『カルテット』の破壊的演技に寄せて

 TBSの火曜ドラマ『カルテット』が、3月21日に最終回を迎えた。松たか子演じる真紀の事件や、危惧していたカルテットの解散も回避されて、様々な謎を残しつつもとりあえず一件落着。カルテットファンの間で得体の知れない魔性っぷりが大人気となった、吉岡里帆演じる来杉有朱もまた、最終回でしっかりと爪痕を残していった。

 カルテットのコンサート会場に高級車でやってきた有朱。外国人男性をはべらせながら、指輪を見せつけて「人生、チョロかった! あははは……」と高らかに笑う姿は、最終回で一番のインパクトを残した。そんな相変わらずの言動にファンからは、「アリス最高!」「最後までアリスはやってくれた!」という絶賛の声も。同ドラマは間違いなく、女優・吉岡里帆のヒールとしての存在価値を世間に広め、彼女の人気を急上昇させた。そんな吉岡の魅力と、来杉有朱とはいったい何だったのか、考察してみたい。

 まずは『カルテット』の大まかなストーリーをおさらい。カラオケボックスで偶然出逢った巻真紀(早乙女真紀、本名:山本彰子/松たか子)、世吹すずめ(満島ひかり)、家森諭高(高橋一生)、別府司(松田龍平)は、それぞれ弦楽器奏者として夢を諦められない30代のアマチュア演奏家。この4人が、週末をメインに軽井沢の別荘で弦楽四重奏団「Quartet Doughnuts hole」として活動する模様を描く。それぞれ抱えていた秘密が解けて行くごとに結束力も強くなる4人。最終回を前にして真紀が、戸籍を購入し別人に成り済ましていたという最大の秘密が露呈した。彼女が、警察に連行されたことをキッカケに、カルテットは解散の危機を迎える。それから1年後、世間のバッシングの中、真紀を迎えに行く3人。そして再び4人となったカルテットは、疑惑の人物たちとしての話題性を利用してコンサートを開く。帰る人も多かったが、大盛況でコンサートは終了するのだった。

 さて、そんな4人の仲を破壊するために脚本家が送り込んだ刺客が、来杉有朱だったのではないだろうか。カルテットが定期的にコンサートを行うライブレストラン「ノクターン」のアルバイト店員で、真紀曰く「目が笑っていない」。ネットで度々炎上していたという元地下アイドルだった有朱は、男を誘惑するテクニックを熟知している(しかしノクターンのオーナーには通じず、その技術は眉唾もの)。以前、有朱の妹が有朱に好意を持つ家森に対して「あの人やめといたほうがいいよ。お姉ちゃんのあだ名、淀君だから」と口にしていた。小学校の時に有朱がいるクラスだけが毎年学級崩壊になったり、アップルストアで働いていた彼氏が今では毎日朝からパチンコ屋に並んでいたりなど、様々な恐怖エピソードが後を絶たない。

 物語当初は、誰かの秘密や過去に関係している重要な人物か、もしくは後にカルテットの5人目のメンバーのような存在になるのかと思っていた。しかし、そんなことは全くなく、自分の利益のためだけに破壊活動を繰り返し物語をかき回していった。このキャラについて吉岡は、Abema TIMESのインタビューで「よくいる男性をたぶらかすような魔性な女とは違って、有朱は破壊的な方の魔性の女。どこにも馴染めないで孤立してきた子なので、同じようにはみ出し者だったカルテットの4人が仲良くやっているのを見て、破壊したいと思っているんです。“小学校のときはいつも学級崩壊させていた”という過去のエピソードには、『カルテットを崩壊させるぞ』みたいな暗示も含まれていたり…。有朱が担っているキャラクターの役割自体が、面白いなと感じています」(引用:『カルテット』を崩壊させる魔性の女・吉岡里帆インタビュー「家森さんは全然だめです(笑)」 | Abema TIMES)とコメント。この吉岡の発言こそが、全てを物語っている。深読みをするならば、いい大人たちが夢を見て、お互いの秘密をかばい合い、仲良く共同生活をする、そんなある意味で生温い4人との対比。つまり、アンチテーゼ的なポジションだったのかもしれない。

 また自身のブログで吉岡は、有朱は某お国のアリスと通ずる部分が多々あると言及し、「私が有朱の実家のシーンを撮った日、部屋を見渡すとある美術が目に留まりました。それは子供時代の有朱が手に入れた数々の賞状…“親に認めて貰いたい”そんな叫びが聞こえて来る気もするのです」(引用:カルテットの国のアリス|吉岡里帆「なんでもない毎日。」Powered by Ameba)と分析している。だが、どちらかと言うと親に認められたいと言うより、負けず嫌いでナルシストの印象が強い。実家を見る限り中流家庭育ちな有朱。だからなのか、成り上がろうと異様なまでにお金に執着する。そんな彼女の姿には、恐怖すら覚えた。

 しかし普通のドラマなら、どこかで改心したり、やられて弱ったりするものだが、最後までキャラを貫きとおしているところが人気の秘訣。この有朱の魔性の女っぷりは吉岡だからこそできた役と言える。何と言っても目が笑っていない演技は秀逸で、美しくピュアな顔の吉岡だからこそ、平気な顔をして人を傷つけていく言動は心底怖い。目が笑っていない演技について吉岡は、「他の人のセリフを聞き入っちゃうと、興味が湧いてきて自然と目が生きてしまうんですよね。だから、本当に興味を持たないように、どこか上の空で聞きながら演じています」(引用:『カルテット』を崩壊させる魔性の女・吉岡里帆インタビュー「家森さんは全然だめです(笑)」 | Abema TIMES)と述べている。このドラマ随一の修羅場でも終始目が笑ってない表情と、長台詞を淡々と演じた吉岡の力量に、感嘆の声が挙がるほどの名演技であった。

 第5話ですずめに代わり、真紀の監視役を引き継いだ有朱。失踪した理由を聞かれた真紀が「夫とは多分私の片思いだったのかな」と語ると、「そんな耳障りの良いこと口にしてる人って、現実から目を背けてるだけじゃないですか?」「夫婦に恋愛感情なんてあるわけないでしょ、そこ白黒はっきりさせちゃダメでしょ、そうしたら裏返るもんオセロみたいに。大好き、大好き、大好き、大好き、殺したいって! 夫婦に恋愛持ち込むから夫婦間に殺人事件が起きるんじゃないですか?」と、すずめの静止を振り切って相手の一番痛い所を突く。だが、「私たちは真紀さんの味方ですから」と、こんな状況でもにっこりと微笑むというサイコパスぶり。

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