下世話だけど胸に迫る! ジャド・アパトー『エイミー、エイミー、エイミー!』のコメディ術

 歳を重ねることで変わりゆく価値や人生の尊さ、やり場のなさ、どん詰まり感。そこで必死になるからこそ生まれる、腹を抱えるほどの可笑しさ。その全てが本作にはてんこ盛りだ。シューマーは今をときめく売れっ子。アパトーは本来自らコメディアンを目指しながらも、いつしか作り手に回ることを決断した人物でもある。そんな裏と表の二人が切磋琢磨しあいながら作品を作り上げていくさまは、その過程そのものが一本の映画のようでもある。その情熱の香りに惹かれるように、今やオスカー女優となったブリー・ラーソンが妹役で登場したり、他にもティルダ・スウィントン、ダニエル・ラドクリフやマリサ・トメイ、エズラ・ミラーなど豪華な面々が、全くもってよく分からない役柄で顔を覗かせているのも驚きだ。みんなこの映画が持つ奇妙な磁力に惹かれたのだろう。

 ちなみに原題は『Trainwreck』。“大失敗”、あるいは“めちゃくちゃな状態”を表す言葉である。同じトレインという言葉と掛けたのか、終盤では目的地に向かう途中で地下鉄が止まってしまうシーンが映し出される。人生、何事もそう簡単にはいかない。冒頭の言葉に戻ろう。彼女はこう口にする。

「ちっとも思い通りにいかなかった。足も全然上がらなかった」

 歳を重ねると思い通りにならない自分に苛立ち、その原因を環境のせいにしたくなることだってある。だが、たとえ自分の生活や、才能、時には人生そのものがめちゃくちゃに思えて頭を抱えたとしても、それは決して絶望ではない。一歩引いてみると、それがむしろ新たな自分を受け入れる入り口に思えることだってある。クライマックスのシューマーは、無様でカッコ悪いが、でもなんだか輝いて見える。何かを受け入れた彼女はとても素敵だ。

ーーとはいえ、やっぱり相変わらず、下世話ではあるのだが。

■牛津厚信
映画ライター。明治大学政治経済学部を卒業後、某映画放送専門局の勤務を経てフリーランスに転身。現在、「映画.com」、「EYESCREAM」、「パーフェクトムービーガイド」など、さまざまな媒体で映画レビュー執筆やインタビュー記事を手掛ける。また、劇場用パンフレットへの寄稿も行っている。Twitter

■公開情報
『エイミー、エイミー、エイミー! こじらせシングルライフの抜け出し方』
ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開中
監督:ジャド・アパトー
脚本:エイミー・シューマー
製作:ジャド・アパトー、バリー・メンデル
製作総指揮:デヴィッド・ハウスホルター
出演:エイミー・シューマー、ビル・ヘイダー、ブリー・ラーソン、ティルダ・スウィントン、コリン・クイン、ジョン・シナ、レブロン・ジェームズ
2015年/アメリカ映画/英語/125分/カラー/ビスタサイズ/5.1chドルビーデジタル
原題:TRAINWRECK
(c)2015 UNIVERSAL STUDIOS.ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:http://www.interfilm.co.jp/amyamyamy/

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