『劇場版 ソードアート・オンライン』はなぜ、現実と虚構を等価に描いた?

現実を仮想化するAR

 今回の劇場版は、今までに登場したVRタイプのフルダイブのゲームではなく、現実の街をARデバイス「オーグマー」によって仮想化する試みだ。ポケモンGOのように街の一部にモンスターがちょろっと映る程度のものではなく、目に装着するデバイスを通して景色全体を仮想のものに塗り替える。現実世界も仮想世界もその違いは、視覚認識のちょっとした差異にすぎないという思いを強く抱かせる。

 

 VR内のゲーム世界を死の概念によって現実化したアインクラッド編に対して、劇場版は視覚的に現実世界を仮想世界に置き換える。現実を仮想化するという点で、フルダイブのVRとは反対方向からのアプローチだが、行き着く感覚は良く似ており、実に『SAO』らしい世界観だ。

 マザーズ・ロザリオ編でフルダイブVRの医療利用への可能性をにじませていた本作だが、劇場版でもフィットネスなどARのゲーム以外への利用の可能性も示唆する一方で、現実認識を歪ませる危険性を指摘するなど、今後現代社会でも議論されることになるであろうポイントも提起しており、現在の技術の進化の先になにがあるのかを考えさせるような内容も含まれていて興味深い。

 

 さらに本作は、AIで生成された知能は人間と呼びうるかという問いかけも観客に与える。キリトとアスナにはAIの娘がいて、本当の親子のように振る舞っているが、そうした人間関係レベルにおいて、仮想化された現実の中で、AIの存在に人間と等しい価値が置かれている。ネタバレになるので詳述しないが、AIの娘というのは本作のストーリーの重要な核ともなっている。今後、現実世界でもAIやロボットの権利や義務の議論も含めてどのように扱うべきなのかは、たくさん論じられることになるのだろう。先日、ビル・ゲイツがロボットに課税をするべきと語ったというニュースがあったが、課税の義務を課すなら権利も付与すべきという議論も当然出てくるのだろう。

 過去に登場した登場人物たちも多数登場し、なおかつARという新しい要素も巧みに取り入れてながら、『SAO』の世界観をきっちりと構築している。ファンなら間違いなく楽しめる作品になっているだけでなく、仮想と現実が入り乱れて等価となった現代をどう生きるべきかのヒントも与えてくれる、見事な映画化だ。

■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。

■公開情報
『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』
全国公開中
配給:アニプレックス
(c)2016 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス刊/SAO MOVIE Project
公式サイト:http://sao-movie.net/

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