映画祭「AKIBA PASS FESTIVAL」イベントレポート

『この世界の片隅に』ドイツでの反応は? “KAWAII”を超えた日本アニメへの関心

座敷わらしは「トトロみたいなもの」

シネコン「Cinedom」の大型スクリーンを眺めるペア席。全体的にゆとりがる座席はドイツのどのシネコンも同様だ

 歴史としてあるいはアートとして――戦争が舞台のアニメにも関わらず、映画として肯定的に受け止められたというのは、“何があっても生きていかなければならない”という世界につうじる人間の根源的な生きようが描かれていたからなのかもしれない。

 一方で否定的とまでは言わないが、ドイツの観客が違和感を覚えた点を強いて挙げるとしたら、すずを演じた“のん”の声だ。ドイツで映画は完全吹替えが一般的で、字幕は稀。多くの声優が活躍をするが、子ども向け映画以外では男女ともにダンディーめの声が多い。前出のゾンマーアイゼンさんは「すずが子供時代は全く問題なかったけれど、大きくなってからも子供っぽい声色でおかしいなと思った」と指摘する。ただし最終的には、「スローテンポなキャラクターにマッチしてたと言えるのかもしれないね」と納得していた。

 また流石にハードルが高いだろうと座敷わらしの部分について何人かの観客に訪ねてみると、案の定正確な意味はわからず仕舞いだったようだ。筆者が説明を試みると、「(子供にしか見えない)トトロみたいなものだね」と納得する観客も。思うに、毛むくじゃらの人さらいの描写やワニと結婚する兄のイラストと同じ程度に、「不思議だけど想像力豊かなすずにあって不自然ではないこと」として受け入れられたようだ。日本の伝承文化に知らず知らずに触れる、いい機会となったかもしれない。

(写真=Aki SCHULTE-KARASAWA)

■シュルテ柄沢 亜希
医療IT系企業のマーケティング・コミュニケーションを経験した後、東京を拠点に4年間記者生活を送る。その後、フリーランスへ。書くこと、レポートすることが生きがい。執筆ジャンルは自転車・アウトドアアクティビティ、スポーツ、旅、食、アート、ライフスタイルなど文化全般。幼少期の5年間をドイツ・ハンブルクで過ごしたことがアイデンティティのベースにある。

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