『ラ・ラ・ランド』最多14ノミネート! アカデミー賞ノミネーション結果と“初の試み”を考察

 いよいよこの日、この時間がやってきた。1月24日、ロサンゼルス時間早朝5時18分(日本時間24日午後10時18分)。映画業界関係者はこの瞬間のために数年間創作に命をかけてきた。アカデミー賞授賞式本番よりもノミネーション発表の時が重要なのは、ここでようやく戦いの火蓋が切って落とされるから。ノミネートされた公開中作品はこれから1ヶ月間観客動員数を伸ばし、人々はそれぞれのオスカー予想を繰り広げる。さて、例年とは異なるネット配信形式で行われたノミネーション発表はどんな評価を得たのだろうか。

 

 『ラ・ラ・ランド』強し! ゴールデングローブ賞の7部門受賞も驚いたが、アカデミー賞では史上最多14部門でノミネート。実際には歌曲賞で「Audition (The Fools Who Dream)」と「City of Stars」の1曲がノミネートされているため、13部門14賞でノミネートだ。14部門ノミネートは、1950年の『イヴの総て』、1987年の『タイタニック』に次ぐ記録で、受賞においては『タイタニック』と『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』(2003年)の11部門が最多、『ラ・ラ・ランド』が記録を塗り替える可能性もある。現在のアメリカにおける興行収入は8,900万ドル(約107億円)で、今週末には1億ドルを超えるだろう。公式ツイッターではノミネーション発表直後に「14部門ノミネート!」のバナーを出しており、『ラ・ラ・ランド』陣営にとって想定内のノミネーション結果だったようだ。『マンチェスター・バイ・ザ・シー』『ムーンライト』もそれぞれ8部門ノミネートで、ほぼ下馬評通りとなった。

 日本勢のノミネートは、長編アニメーション部門の『レッドタートル ある島の物語』のみ。スタジオジブリの初の海外共同製作で、今作によって2014年の『風立ちぬ』以来4年連続のノミネートだ。同じく長編アニメーション部門には、日本を舞台にしたストップ・モーション・アニメーション『Kubo and the Two Strings』が入っている。米ポートランドに拠点を置くアニメーション・スタジオ、LAIKAによる作品で、三味線を武器に悪霊と戦う少年クボが主人公。『沈黙ーサイレンスー』の窪塚洋介は助演男優賞のノミネートを逃したが、こちらのクボくんは見事ノミネートを果たした。

 今年の“サプライズ枠”は主演女優賞のルース・ネッガ(『ラビング 愛という名前のふたり』)で、初ノミネートとなった。ゴールデングローブ賞でのトランプ政権批判スピーチで大喝采を受けたメリル・ストリープ(『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』)は自身20回目のノミネート。下馬評では歌曲賞(「Audition」)にもソロ楽曲がノミネートされているエマ・ストーンが主演女優賞最有力だが、メリルのスピーチをもう一度聞きたいという勢力が奇跡を起こす可能性もある。また、脚本賞の『ロブスター』はギリシャ出身のヨルゴス・ランティモスとエフティミス・フィリップによる初の英語作品で、昨年のカンヌ映画祭審査委員特別賞に続く快挙となった。

 昨年のノミネーションが白人俳優に偏っていたことから「Oscar So White(白すぎるオスカー)」と批判を浴びたが、今年の俳優賞は各賞ともきれいにミックスされている。これはトランプ政権発足に伴う白人至上主義への不安感、先週末の女性たちによるデモ行進など世相を反映した結果と言えるかもしれない。アメリカにとって映画産業は単なる芸能エンターテイメントではなく、国全体の景気や世相を表す重要なファクターだ。アカデミー賞は昨年1年の空気を形にし、これからの映像産業を予見する重要な祭典なのである。

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