『ラ・ラ・ランド』はオスカー戦線を走り抜くことができるか? 米在住ライターによる5つの考察

 12月25日のクリスマス・デーに伝えられたジョージ・マイケルの突然の訃報は、今年のオスカー戦線における『ラ・ラ・ランド』快進撃のストッパーとなってしまうかもしれない。オスカーのフロントランナー『ラ・ラ・ランド』はこのまま1月5日のアカデミー会員投票日まで突進し続けるだろうか、それともーー。

 『ラ・ラ・ランド』は、昨年のアカデミー賞で3冠に輝いた『セッション』のデイミアン・チャゼル監督の最新作で、女優志望のミア(エマ・ストーン)とジャズ・ピアニストのセバスチャン(ライアン・ゴズリング)が夢を追うロサンゼルスの恋人を演じている。12月8日にニューヨークの2劇場とロサンゼルスの3劇場で限定公開され、16日に全米200館に拡大、25日には更に全米734館に超拡大公開された。12月26日付のボックスオフィスでは、興行収入1,758万ドル(約20億円)を突破している。この夏のベネチア国際映画祭から始まったプレスの『ラ・ラ・ランド』賞賛モードも、12月の放送映画批評家協会賞で作品賞・監督賞を含む8冠、年明けに行われるゴールデングローブ賞の最多7部門ノミネートで一息ついたところだ。現時点でオスカーのフロントランナーと言われている『ラ・ラ・ランド』は、このまま2月26日のアカデミー賞授賞式まで逃げ切るだろうと予想する。その理由は5つある。

1.映画の都ロサンゼルスに愛されている

 タイトルの『ラ・ラ・ランド(La La Land)』 はロサンゼルスの別名。プレミアに出席したロサンゼルス市長のエリック・ガルセッティは「この映画以上の観光パンフレットはないね。60カ所以上でロケが行われ、ロサンゼルスは映画スターだけでなく、ロマンスが生まれる街でもあることを示してくれた。映画のためならいつだってフリーウェイを閉鎖するよ!」と語った。オープニングで使われているフリーウェイだけでなく、そのほかのロケ地もロサンゼルス市民にとって馴染み深いところばかりで、アンジェリーノ(ロサンゼルス市民)に愛される映画となっている。アカデミー賞投票権を持つアカデミー会員の多くがロサンゼルス在住映画関係者であることから、地元票の獲得が見込まれる。

 ちなみにミアとセバスチャンのデートシーンで使われているエンジェル・フライトは、施設だけが残っており2013年より運行中止。このエンジェル・フライトは、同じくロサンゼルスを舞台にした『(500)日のサマー』でトムとサマーが愛と現実を語る丘の横を走っている。

2.映画業界人に愛されている

 『ラ・ラ・ランド』は各映画祭でお披露目されるとともに批評家が絶賛評を書き始め、オスカー予想の定番であるトロント映画祭の観客賞も受賞した。映画批評サイトRotten Tomatoesにおける『ラ・ラ・ランド』のトマトメーター(おすすめ度)は93%と上々。ちなみに、過去のオスカー受賞作のトマトメーターは、2016年(第88回)『スポットライト 世紀のスクープ』(96%)、2015年(第87回)『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(91%)、2014年(第86回)『それでも夜は明ける』(96%)、2013年(第85回)『アルゴ』(96%)。ただし、トマトメーターだけで言うと対抗作の『Moonlight』が98%、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』が97%と高評価を得ているところが気掛かり……。

3.観客にも愛されている

 近年のアカデミー賞作品賞受賞作は、史実や実在する人物を元にした作品が多く、常にどこか政治的背景がつきまとう。これは、娯楽作として生を受けた映画が、世の移り変わりとともに、世相を反映する鏡(もしくは、社会にアンチテーゼを突きつける媒介)としての役割を担い始めたことに所以する。それらの作品は、高い志に基づいて作られた映画であるし、世に疑問を投げかけることは映画の使命でもある。だが、正直、「いい映画だけど二度と観たくない」と感じることも少なくない。この『ラ・ラ・ランド』には、芸術を志す者の葛藤やビジネスとアートの折り合いといった業界政治的な側面も含んでいるが、表面上は普遍的なボーイ・ミーツ・ガール物語で、誰もが頭を使わずに楽しむことができる。なにより、鑑賞中から幸福感に満ち溢れ、映画館で映画を観る行為を特別な体験に変える。過去のオスカー受賞作と真逆で、SNSには「映画が終わってすぐにまた観たくなった」「リピ決定」といった反応が溢れ、近年稀に見る批評家と観客の率直な感想が乖離していない作品となった。

 また、アメリカ映画協会によるレイティングは「PG-13」(13歳以下は保護者の同意を推奨)で、際どい暴力描写や性描写や言葉の暴力もなく、家族みんなで観られる映画ということも高評価につながっている。

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