『逃げ恥』ワールドを作り出した全ての方々に拍手! 幸せに生きるためのヒント詰まった最終話

ジェネレーションギャップは、視野を広げるチャンス

 アラフィフで仕事に生きてきた百合(石田ゆり子)と、風見(大谷亮平)の17歳差の恋にも注目が集まっていた。出会ったころ、風見のことを「イケメンは好きじゃない」と言い放っていた百合。一つもコンプレックスがないように振る舞う風見を、いけ好かないとして「風見鶏」と揶揄したこともあった。だが、2人は少しずつ本音を話し、徐々に惹かれ合っていく。百合が「風見くん」と呼び方が変わっていったのも、その気持の変化を表しているようだった。

 だが、年の差を考えて、風見と向き合う勇気が持てない百合。だが、そのキッカケをくれたのは、20代のポジティブモンスターこと五十嵐(内田理央)だった。「50(歳)にもなって若い男に色目を使うなんて、虚しくありませんか? アンチエイジングにお金を出す女はいるけど、老いをすすんで買う女はいない」と、大胆な宣戦布告。若さは無知ゆえに無敵な一面がある。だが一方で、頑なになってしまった大人を開放してくれるのも、若さによる勢いだったりもする。どちらがいい悪いではなく、お互いが違う世代であることを受け入れて、刺激を受け合って、視野を広げていけるのではないだろうか。

 このときの百合の大人な対応は理想的だった。「私が虚しさを感じるとすれば、あなた同じように(若さに価値を)感じている女性がこの国にはたくさんいるということ。あなたが価値がないと切り捨てたものは、あなたの未来。馬鹿にしていたものに自分がなる。それって辛いんじゃないかな」と言葉を選んで自分の考えを伝えていく。そして「自分に呪いをかけないで。そんな恐ろしい呪いからは、さっさと逃げてしまいなさい」と。カッとなって感情のままに言葉を投げつけたり、頭ごなしに否定するのではなく、「あなたは、そういう考えがなのね。私はこう思うけど、どうかしら?」と、言葉を選んでいく余裕があった。五十嵐もまた、百合との出会いによって、これから言葉を選ぶ大人の魅力が備わっていくかもしれない。

厳しい風当たりよりも、気持ちに素直に

 五十嵐のショック療法もあり、誰よりも年齢という呪縛にしばられていたということに気づいた百合。風見は、楽しいときも、弱っているときも、一緒にいて安心できた存在。無理に合わせるのではなく、率直に意見を交わすことができた。そして味方となって、視野を広げてくれた。そんな大事な人を、年齢の差や周囲からの風当たりを気にして手放すことは、果たして自分の幸せなのだろうか。

 ようやく、素直になる勇気を持てた百合は、みくりが企画したイベント会場で、風見と再会。想いを伝え合った2人は、初々しい恋人同士に。友だちがそれぞれを連れ出して2人きりにするところや、「好きです」「私も」という初々しい告白、そしておでこにキス。その一連のやりとりが、まるで初恋のような甘酸っぱさ。それも深い恋愛経験のない百合に無理なく風見が歩調を合わせているあらわれ。互いの違いを愛しいと思えること。つき合うというのは、こういうことなのだろう。そして、この先も一番の味方でありたいという、信頼関係の確認だ。

 人として誰かに必要とされたい。それが、みくりという姪っ子や、沼田(古田新太)のような友達、信頼してくれる部下たちでも、十分に満たされていたと百合は思っていただろう。だが、一歩踏み出してみたら、心の奥底から満たされる愛が待っていた。「幸せな50歳を見せてくれた」と、視聴者に大きな勇気を与えてくれたのではないだろうか。

小さな痛みをもたらす呪縛なら、逃げるは恥だが役に立つ

 このドラマの出演者は、みんな何かしらの呪縛にとらわれていた。みくりの「小賢しい女」であるからうまくいかないという考えも、30代にして女性との恋愛経験がない平匡の「プロの独身」発言も、もうすぐ50歳となる百合も年齢にこだわっていたし、ハイスペックイケメンゆえに打算的な恋ばかり繰り返してきた風見もそう。また、ゲイの沼田も外見に自信を持てずに恋心を寄せる相手と対面できずにいたし、百合の部下の梅原(成田凌)はネット上の出会いで距離を縮める勇気が持てず、もう一人の部下の堀内(山賀琴子)は語学力の期待に答えられないコンプレックスから帰国子女であることをカミングアウトできずにいた。

 最終回は、その呪縛の紐がスルスルと解かれていくような感覚だった。「普通ではない」自分に素直になったら、がっかりされて傷つくのではないか。誰も理解してくれないのではないかと、心のシャッターを閉じがちになる。「普通」に違和感がないときは、それでいい。だが、目に見えない「普通」の枠に収まろうとして、生きにくくなっていては本末転倒。

 「普通」は、ひとつのやり方だ。あくまで、ひとつの目安でしかない。そのやり方がうまくいかないのであれば、その呪縛からは逃げてもいいのだ。もしかしたら、そのしがらみが自分の余裕をなくしてしまっているかもしれないからだ。余裕を持って生きることができれば、自分も相手も尊重しながら、意見をすり合わせていくプロセスも、めんどくささを感じつつも、きっと楽しいに違いない。このドラマ『逃げ恥』を見た人と、意見を交わし合った日々が、楽しかったように。

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