窪田正孝、“影のある男”から“かわいい男”へーー異例のドラマ『ラストコップ』の面白さ
今シーズンのドラマでは『逃げるは恥だが役に立つ』(TBSテレビ)の新垣結衣が“かわいい”と話題となっているが、若手の男性俳優にも注目すべき“かわいい”人材がいる。いつもは影のあるイメージが強く、“カメレオン俳優”とも称されるほど幅広い役柄と、ストイックな演技で評価される窪田正孝だ。窪田は現在、放送中のドラマ『THE LAST COP/ラストコップ』(日本テレビ/Hulu)に出演し、これまでのイメージを刷新する演技を見せている。その“かわいさ”に触れる前に、まずは『ラストコップ』がどれだけ異質なドラマなのかを改めておさらいしておこう。
ベタに見えて実は特殊なドラマ
日本テレビと動画配信サイト『Hulu』との共同制作によるこのドラマは、ドイツの人気刑事ドラマ『DER LETZTE BULLE』をリメイクした作品だ。2015年に、金曜ロードショーではスペシャルドラマとして、Huluでは連続ドラマとして配信された。
唐沢寿明演じる刑事・京極浩介は、1985年に凶悪犯・カグラを追いつめた際に仕掛けられた爆弾の被害によって昏睡状態に陥り、30年後の2015年に目覚める。価値観が1985年のまま、数々の事件を解決していく痛快さで大ヒットした作品だ。その続きとなる1年後の姿を描く物語が、今回の日本テレビでの連続ドラマである。
かつて、『踊る大捜査線』シリーズのスピンオフである『係長 青島俊作』や、『闇金ウシジマくん』のノーカット完全版がネットで動画配信されるケースはあった。また、『MOZU』のようにWOWOWとの共同製作で有料衛星放送と連係して放送するケースもあった。しかし、動画配信ドラマの続編をゴールデンタイムの地上波で放送するという、テレビと動画配信の関係が逆転したかのような本作のスタイルは、極めて異例である。
すでにHuluで1クールを終えていることもあり、謎解きの重要な部分である京極を陥れた真犯人であるカグラの正体や、30年の眠りから覚めた浦島太郎状態の京極にとってのパラレルワールドである現代における世代ギャップ、元妻や面識のない娘との関わり合いの葛藤など、このドラマのおいしい部分は一通り解決している。
では、続編では何を楽しみに見れば良いのか、初見はどこを楽しめば良いのか。テレビ放送の連続ドラマとしては、とても難しい状況からのスタートとなっているといえよう。そこで重要になってくるのが、京極の相棒となる窪田正孝演じる若手刑事・望月亮太の存在だ。
ストイックな窪田正孝の“壊れっぷり”が見どころ!?
ベテラン刑事と新人刑事の凸凹コンビで世代間ギャップの面白さを描くのは、刑事物の定番パターンだ。草食系な刑事である望月が、京極の破天荒ぶりでどんどん自我が崩壊し、面白ツッコミ担当になってしまう過程は、これもすでにHuluで一通り見せてしまっている。
ただ地上派ドラマとなった京極はさらにパワーアップし、当時の人間でもここまで浮世離れしていないだろうという熱血刑事ぶりと昭和ギャグ、そして破天荒を超えた超人ぶりを発揮している。ネット上では、「変身しない仮面ライダーもの」なんて言われるほどだ。対する望月は、その勢いに翻弄されるあまり、キャラが崩壊する。公式サイトにはボケとツッコミとあるが、もはやボケと嘆きとなっている2人のやりとりが今回のドラマの見どころだと言えるだろう。
窪田はこれまで数多くのドラマに出演し、2014年のドラマ『花子とアン』で注目を集め、昨年のドラマ『デスノート』の夜神月役で大ブレイクした。2015年の『アルジャーノンに花束を』に出演した際に、脚本家の野島伸司が会見で「芝居がうまい人はたくさん見ているが、その人達と同じく(彼は)憑依型の俳優」と評した。
窪田本人も「作品の一部に染まっていくのが理想」と認める、イケメンから凶悪犯罪者までどんな作品の中でも自然に溶け込む俳優だ。そんな彼が、唐沢寿明によってどんどん壊れて行く醍醐味。目を見開いて、第四の壁を壊し「帰りてー」と視聴者に訴えかけるように嘆くのである。かつてとんねるずの食わず嫌い王決定戦に出演した際に、唐沢は暴走気味にボケ倒した。このドラマには、そんな唐沢のアブレッシヴな姿勢が溢れていて、窪田は新たなステージにたどり着くどころか、完全に“壊れた演技”を見せるのだ。それは滑稽なのだが、なんとも同情を引く、愛らしさが溢れている。これまで演技派として理知的な演技で見せてきた窪田が、望月の勢いに“素”の表情を見せてくれたことに、かわいらしさを感じるのだ。
実際、窪田は「本当に唐沢さんに引き出していただきました」(トレンドニュース2016/09/26 )と答えている。