超低予算映画『あなたを待っています』 いまおかしんじ×菊地健雄が語る“面白い”自主映画の作り方

“ちょっと間違えた正義を持った人”

左・大橋裕之、右・山本ロザ

−−主人公・西岡は極めて個人的な“正義”にもとづいてヨシコ(山本ロザ)を救済し、新たな地へと旅立ちます。東京の未来に危機を覚え、山奥に移住しようとする西岡の姿は滑稽にも見えながらも、他人に左右されないその生き様が格好良くもあります。いまおかさんは西岡というキャラクターをどう捉えていらっしゃったんですか。

いまおか:地震や原発ネタに関してはそこまでこだわっていたわけじゃないんだけど、“ちょっと間違えた正義を持った人”というのは過去作を考えても自分のテーマではあるのかなと思う。何かに取り憑かれてしまった人、一歩間違えれば宗教家みたいになっちゃうんだけど、世の中をよくしたいという気持ちは持っている。同じような思いは、少なからず俺もある。それを俺たちは西岡のような行動ではなく、映画に託しているわけで。ある意味、共通しているところはあるのかもしれない。

菊地:自分の話で恐縮なんですが、『ディアーディアー』を撮った時、師匠の瀬々さんからの感想が、「お前は平成ボンヤリ派だ。社会的なことに関心を寄せつつ、風穴を開ける気がまったくない。(同時期に公開されていた)『新しき民』の山崎樹一郎、『蜃気楼の舟』の竹馬靖具、あの二人には社会に対して風穴を開けてやろうという気概が見えるけど、お前にはまったくない」と。

いまおか:真っ向から言われるとそれはきついなあ(笑)。

菊地:ちょっと納得した自分がいつつも、そんなことはないと思ってはいるんです。いまおかさんは映画で既存の価値観をぶっ壊してやろうみたいなのはないんですか。

いまおか:必要だとは思っているから、どうやって映画に反映していくというのは考えとしてある。でも、俺もボンヤリ派だろな(笑)。だけど、そういった社会に対しての意識がないと、映画を作り続けていくのは難しいと思う。

菊地:『タクシードライバー』の主人公トラヴィスのように、ある種の正論は周りから見たら無茶だったり無謀だったりするわけですよね。先程、いまおかさんもおっしゃっていましたけど、映画監督って誰もが西岡みたいな要素は持ち合わせていると思います。その一方で、西岡の先輩役者・森尾(守屋文雄)はCMで稼いでいる分、口では言うけど行動には移さない。多くの人はこの森尾になっちゃいますよねえ。

いまおか:俺も西岡というよりは森尾なんだよね。口では言うけど動かない派。そういう意味では、愚直なまでに行動を起こせる西岡は憧れの存在でもあるかな。

映画監督にこれから求められるもの

いまおか:自主映画という部分と、商業映画というラインで菊地君は微妙なラインだよね。

菊地:ちょうど自主と商業の狭間にあるというか。有り難いことに、僕の作品に出演してくださっている方々はプロの役者として仕事をしている方々ですけど、作り方という部分では自主映画に近いですかねえ。エンタメと言われるとどうなんだろう?というのはあるので。僕は瀬々さんの背中を見ながらキャリアを積んできたので、エンタメもやるし、小さいものもやる、そのスタンスでやっていけたらいいなという気持ちもあるんです。そのせいか、自主映画の自由さ、上手くても下手でもいいじゃん、というところに開き直れない自分がいるんですよね。きっちりやりたくなってしまう自分がいるというか。

いまおか:いや、そのままきっちりやったほうがいいと思うぞ(笑)。

菊地:いやいや、既に自分の限界みたいなのを感じてしまって。いまおかさんの映画や、今年公開された鈴木卓爾さんの『ジョギング渡り鳥』を観ると、自由だなあとしみじみ思うんです。映画ってこれでいいんだよなと。

いまおか:自由って言うか、自棄でしょ(笑)。これしかないじゃんという。

−−大作映画とインディペンデント映画、かけられる予算が大きく変わる中で、それでも“面白い”映画を作るには何が大事だとお考えでしょうか。

菊地健雄監督

菊地:それがわかってたらこんなに苦労してないと思いますが(笑)。でも、いましろさんが言ってたという「冒険しないで何が面白いんだよ!!」とか「面白いなんて価値観は人それぞれバラバラなんだから、そんな気持ちはいらん!」って沁みますね……。やっぱり当てにいかず、三振かホームランかくらいの気持ちで強振するくらいの思い切りが必要かもしれないなといつも思ったりします。一方で、今回、いまおかさんが悩んだ「誰もが観ても分かる面白さ」も必要だよなってところで毎回自分も難しいなと悩んでます。

いまおか:結局、面白いと思うかどうかは映画を観てくれたお客さんの気持ち次第だからね。それでも、まずは自分が“面白い”と思えるかどうかが大事だと思う。それと、これからの映画監督は自分で企画を立てて動いていかないといけないよな。俺はどうしてもオファーを待っちゃう方だけど。菊地も合間合間に助監督やって、生きていけちゃうからよくないんじゃないの。

菊地:そうなんですよ。それがよくないことは自覚もしているんですが……。先輩たちの意見も別れますね。きっぱり退路を断てという人もいれば、瀬々さんには監督も助監督もやっていい時代とか言われる。

いまおか:単純に瀬々さんが菊地君を助監督として使いたいからでしょう(笑)。自分の気概として、いい話を撮っているより、しょうもない話の方がいいというのもあるせいか、この作品みたいにどうしても予算が小さいものが回ってくる。それはそれで有り難いことなんだけどね。でも、大きい作品でも、どんなテーマでも、なんでもやる気持ちはある! だから、くれ、仕事くれええ。

(取材・文=石井達也)

■いまおかしんじ
1965年生まれ、大阪府出身。瀬々敬久、神代辰巳らの助監督を経て『彗星まち』(95)で監督デビュー。2011年にはクリストファー・ドイルを撮影にむかえた日独合作映画『UNDERWATER LOVE 女の河童』を発表。代表作に『たまもの』(04)、『つぐない 新宿ゴールデン街の女』(14)など。脚本家としても活動しており、『苦役列車』(12)、『超能力研究部の3人』(14)などがある。

■菊地健雄
1978年生まれ、栃木県足利市出身。映画美学校在籍中に瀬々敬久監督に誘われ助監督になる。助監督としての参加作品は『ヘブンズ・ストーリー』(10)、『UNDERWATER LOVE 女の河童』(11)、『岸辺の旅』(15)など多数。2015年『ディアーディアー』にて長編映画を初監督。第29回東京国際映画祭、日本映画スプラッシュ部門で監督二作目『ハローグッバイ』が上映される。

 

■公開情報
『あなたを待っています』
全国順次公開中
企画・原案:いましろたかし
監督・脚本:いまおかしんじ
プロデューサー:松江哲明、山下敦弘
出演:大橋裕之、山本ロザ、守屋文雄、姫乃たま、悦子ママ、佐藤宏、吉岡睦雄、速水今日子、工藤翔子、川瀬陽太ほか
音楽:オシリペンペンズ
エンディングテーマ:坂本慎太郎「めちゃくちゃ悪い男」
撮影:鈴木一博
制作:白岩義行
制作協力:ハリケーン企画

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