映画『HiGH&LOW THE MOVIE』大内貴仁アクション監督インタビュー

『HiGH&LOW THE MOVIE』の“集団戦”はいかに生まれたか? アクション監督・大内貴仁が語る

俳優の役作りとアクション監督の関係

 

――プロジェクトのコンセプトが“全員主役”なだけあり、本作ではそれぞれのキャラクターが個性的に作られていますね。各キャラのアクションも、久保監督とコミュニケーションをとりつつ作られたんでしょうか?

大内:監督とは事前に脚本の設定や衣装などから各キャラクターやチームごとの戦い方について話し合いました。「この人たちはこれくらいの強さで、こういう感じで戦わせたい」とか。今作はオリジナルの脚本ということもあり、ゼロから作る面白さっていうのはありました。ただ、キャラクターの数も膨大だったので、それぞれのバトルスタイルに変化をもたせるのも大変だったんです。個性を作っていく上で、言葉で表現できるバリエーションはなくなってくるんですよ。そういう意味で難しかったのは、ドラマSeason1の最後のほうに登場する達磨一家でしたね。そこに達するまでにかなりのチームの構成をしていたので、ネタがなくなってきてましたから(笑)。

――なかなか難しいですね。

大内:達磨一家の戦い方じたいに変化をつけてみようかなと思ったんです。もちろん、リーダーの日向(林遣都)には、勝つ為には手段は選ばない、勝つまでやるっていうスタイルはできていたんですけど。そのチームじたいにも何かカラーを持たせたかった。だから達磨一家のエピソードでは“太鼓を叩くと陣形が変わる”というのをやってみるのはどうかと思ったんです。彼らは法被を着ているので、お祭り感が出るのも面白いかなって。そうすることで他のチームにはない、チーム力で戦うというまた新しいかたちができました。そうやって、それぞれのチームのカラーを作って、そのトップがこうあるべきだ、という順に作っていきました。

――バトルスタイルについては、それぞれの役者さんともやりとりをされたんでしょうか?

大内:そうですね。イメージを作っていくうえで、役者さんたちにレッスンするんですけど、最初はこちらからはあまり要求しないですね。アクション練習していると、思っているより過酷で、続けていくうちに疲れすぎて、たまに素の部分がでることがあるんです。そういう彼らの自然なクセとかが面白かったりするんですよ。「この自然なたたずまいがコブラ(岩田剛典)に見えるね」と指摘してあげると、彼らは自分たちなりにどんどんキャラクターを作っていってくれる。ぼくが考えていた理想像とちょっと違っても、そっちのほうが面白いこともある。「この人、蹴り上手いな。もうちょっと蹴りを特色にしていったほうがいいんじゃないかな」という感じで、彼らの動きを見たうえで、バトルスタイルを作っていったんです。

――リーダーではないですが、RUDE BOYS・ピー役のZENさんはパルクールを使って戦いますね。きちんと戦いの中にパルクールを盛り込んだ作品は少ないと思うんですが。

大内:ZENくんというすごい人がいるというのは聞いていましたが、彼と仕事するのは今回が初めてだったんです。最初に話したときに、彼のパルクールへ対する熱い思いが伝わってきました。正直、彼ほど実力者があまり映画などで表立ってでていないことのほうが不思議でしたし。パルクールはYouTubeや動画などではかっこよく撮られているのに、日本の作品でパルクールが映像として残っている作品は少ない。今作はパルクールがメインの話ではないけど、映画的、映像的なパルクールの切り取り方をしてみたかった。ZENくんとは「この技が面白いから、こう撮ろうよ」とコミュニケーションをとりながら作り上げていきました。パルクールってアクロバットだと思われてるんですが、本当は移動術なんですよね。

――フリーランニングとも言いますからね。

大内:そう。ただ、今回は敵と接触してバトルとしても成立させないといけない。パルクールで戦うにしても“なぜ屋根の上に逃げるのか”という理由がいるわけです。だからMVでは“カバンを奪い合う”という、一番シンプルな理由を作ったんです。そうすることによって、彼らの特色であるパルクールとアクションの両方を見せることができたんです。そのコンセプトを監督に提案して、採用していただきました。

――RUDE BOYSはとくにバトルスタイルが多彩ですよね。

大内:見ている人がわくわくするような、アミューズメントパークみたいなチームにしたかったんです。アクロバティックに戦う人もいれば、パルクールで敵を翻弄するような人もいて、ブレイクダンスで戦うキャラもいるみたいな。それに対してスモーキーはそれらすべてをすでに極めた、リーダーらしい堂々としたバトルスタイルを持ってもらう。クールでスマートに計算された戦い方というか。

――最小限の動きで敵を倒す、いわゆる達人ですね。

大内:窪田くんはアクション経験が豊富な役者なので、アクションには慣れてるんです。ただ、その慣れを当たり前にしてほしくなかった。だから普段ならOKのところを、OKださないでもうちょっとねばってみたり(笑)

――ひとつ上のものを引き出そうとしたんですね。

大内:彼は本当に魅力のある役者さんで、彼が自然に出すしぐさがすごくスモーキーっぽいんです。僕から提案した仕草なんかも嫌な顔一つせずに演じて、それを自分のものにしてしまう。例えば敵を蹴った後に何かスモーキーらしさを出したくて、窪田君に「なんかこんな感じのクセとか仕草ってないかな?」と相談すると、さらっとこっちが想像している以上のものをだしてくる。人に与えられたしぐさは、“かたち”になりやすいのに、それを自然とやって、あたかもその役のクセのようにみせてしまう。パンチや蹴りは教えることができても、動きが“様(さま)”になるっていうのはなかなか教えれないですからね。

「分量としてかたちを残すことも大切」日本アクション映画の課題とは?

 

――『HiGH&LOW』のような作品が出てきて、日本のアクション映画も変わってきているようにも思えるんですが。映画やテレビの業界内で変化を実感していますか?

大内:まだわからないですね。どういった作品でも、最初は「日本のアクション映画を面白くしたい」という話にはなります。ただ、それが最優先事項にはならないのが日本の現状です。アクションに怪我はつきものだし、予算もかかって時間も費やす。でも、時間を費やさないと面白くならない。割に合わないんですよね。撮影を進めていく上で、いろいろな問題が生じてくると、まずアクションの部分が削られることが多いんです。例えばあるワンシーンのアクションを作っていくと、「ここまでやるから面白い」って部分がどんどん削ぎ落とされていって、気づいたら中身のない物が残ってしまうってこともよくありますから。もちろん質をあげていくということも大切なことなんでしょうけど、今の日本では分量としてかたちを残すことも大切なんじゃないかと思います。もちろん作品の内容にもよりますが。

――全体に対する尺ということですね。

大内:今はネットとかで情報を共有できるようになってデータなんかを簡単にとれる。だから「女子高生が飽きる」とか「喧嘩シーン多すぎ」って情報とかでアクションが減っていくってことはよくあるんです。これでは無難なものは作れても、すごい作品は生まれない。今回の場合はたとえそうなったとしても少しでも“アクション作品として残るもの”を作りたかったんです。もちろん、それは色んな人の協力なしにはできないこと。『HiGH&LOW』は照明や美術は『るろうに剣心』と同じ方々だったし、撮影監督は『黒執事』で一緒だった鰺坂輝国さん。お互いのやり方は知っているし、意思の疎通はしやすかった。そういった環境も大きなことにチャレンジできた要因の一つだと思います。

――課題はあるかもしれませんが、『HiGH&LOW』で今までの日本のアクション映画の限界はひとつ超えたんじゃないかと思います。

大内:そう思っていただけるとありがたいですね。『HiGH&LOW』という大きなプロジェクトのアクションを任されて、「普通だった」で終わりたくないですから。豪華なキャスト陣がアクションをしているから「かっこいい!」となるんじゃなく、キャストやスタッフが本気で挑んだエネルギーのようなものが、映像を通して観客に伝わってくれるとうれしいですね。

(取材・文=藤本洋輔)

■公開情報
『HiGH&LOW THE MOVIE』
公開中
出演:AKIRA、青柳翔、TAKAHIRO、登坂広臣、岩田剛典ほか
企画プロデュース:EXILE HIRO
監督:久保茂昭
アクション監督:大内貴仁
脚本:渡辺啓、平沼紀久、TEAM HI-AX
配給:松竹
(c)2016「HiGH&LOW」製作委員会
公式サイト:http://high-low.jp/

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