成馬零一の直球ドラマ評論『はじめまして、愛しています。』
男女愛と親子愛、抱く葛藤は共通か? 遊川和彦『はじめまして、愛しています。』が迫るテーマ
しかし、里親になろうとする信次に対し、男の子を引き取りにきた児童相談所職員の堂本真知(余貴美子)は、スマートフォンで里親が書いたBLOGを見せて、子どもが見せる試し行動について説明する。
「新しい親の愛情を本当に信じていいのか試してるんですよ。
この子は海苔しか食べません。
この子はスーパーに行くと自分の好きなものをかごいっぱいに入れます。
部屋中に飲み物や食べ物をまき散らします。
たんすのものを全部引っ張り出します。
他にも噛みついたり、何度も叩いたりする子もいます。
こんな状態がいつ果てることなく続いたかと思うと今度は実の親に甘えられなかった反動で赤ちゃん返りをするんですよ。
家事をしててもトイレに入っても24時間離れなくなりますよ。音を上げて、それをやめさせると子どもはたちまち心を閉ざしますよ。
子どもは決してかわいいものじゃありませんよ。里親になると、このような地獄の日々が待っているんです」
このシーン、子どもの顔がモザイクで隠されているからか、妙なリアリティがあり、寓話めいた物語に生々しさを与えている。堂本の言葉を聞いたうえで美奈は、今、この子に「愛しています」って誰よりも言えるのは信次だと語り、特別養子縁組を引き受ける。
最後に美奈のナレーションで、「自分たちの予想を超えた地獄の日々」と「この子が引き起こす信じられないような奇跡」という二つの運命に向かって歩きはじめたと語られる。「子どもという他者」と正面から向かい合う遊川の最新作はどこへ向かうのか。期待と不安が同時に渦巻いている。
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
■番組情報
『はじめまして、愛しています。』
テレビ朝日系
毎週木曜日夜9時〜
出演:尾野真千子、江口洋介、横山歩ほか
脚本:遊川和彦
公式サイトhttp://www.tv-asahi.co.jp/hajimemashite/