『リング』『呪怨』では描けなかった領域へーー『貞子vs伽椰子』を成功させた白石晃士監督の手腕

 白石監督は、映画やヴィデオ作品などにおいてホラーをいくつも手がけているが、彼がとくに力を発揮したのが、フィクションを真実であるかのように装う「フェイク・ドキュメンタリー」のジャンルである。「和製ブレア・ウィッチ・プロジェクト」と呼ばれ、話題になった劇場作品『ノロイ』や、その前後の作品群は、近年の世界的なムーヴメントを醸成するヒット作となった『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』や『パラノーマル・アクティビティ』よりも面白さにおいては上だ。それは、ドキュメンタリーの「リアリティ」を追って恐怖感を高めるというよりも、フィクションとしても面白い内容を、ドキュメンタリーの手法で撮っているというところからきているだろう。その結果、リアリティを超えた常識を逸脱する展開が可能になる。

 様々な都市伝説の真相を取材するという設定の、ヒットシリーズとなったヴィデオ作品「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」では、河童(カッパ)の謎を追い、証言者や痕跡を調べていくという回があるが、撮影隊のディレクターが河童に対して肉弾戦を挑むという荒唐無稽な展開になっていく。ここでは、作り手と視聴者が作品をフェイクであるという意識を共有することで、ある種の共犯関係が出来上がっているといえるだろう。だからここでは、描こうとする怪異を「ちゃんと見せる」ことができるのだ。そして、作品が想定している想像の枠を、最終的にはいつも突き破って、全く違う世界に連れて行ってくれる。そのサービス精神と、ジャンルの制約にとどまろうとしない信念は、フィクションである本作『貞子vs伽椰子』でも爆発している。『リング』や『呪怨』では描けない領域の表現に達するからこそ、白石晃士監督が撮る意義があるのである。

 また本作は、白石監督ならではのギャグ描写も多い。彼の作品では、怪しい霊媒師が出てくることが良くあるが、今回は女性の霊能力者・法柳というキャラクターが秀逸だ。その絶妙なうさん臭さとシリアスな口調、そして呪いを解く霊媒中に、あまり意味があるとは思えないビンタを食らわせる様子は、白石作品のファンであれば笑いが止まらなくなるシーンだ。そして彼女の助っ人として現れるのが、安藤政信が演じるアグレッシヴな霊媒師である。物語とは関係の無いところで「お前、バカにしてんのか?」と相談者に食ってかかるゴロツキのような態度、そしてあまりにコミック的な相棒の活躍など、ここでも、いままでの『リング』、『呪怨』シリーズにはない楽しみを提供してくれる。

 白石監督作としては潤沢な製作費を使えた本作。優れたマネージメント能力を駆使し、ここまで娯楽要素を盛りだくさんに詰め込んで、オリジナル作品への敬意と、作家性の追及を同時に達成してくれれば、何の文句も無いだろう。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『貞子vs伽椰子』
全国ロードショー中
監督・脚本:白石晃士
出演:山本美月、玉城ティナ、佐津川愛美、田中美里、甲本雅裕、安藤政信
制作・配給:KADOKAWA
(c)2016「貞子vs伽椰子」製作委員会
公式サイト:http://sadakovskayako.jp

関連記事