脚本家・演出家/登米裕一の日常的演技論

なぜ人は斎藤工をセクシーだと感じるのか? 若手演出家が声と役柄から考察

 若手の脚本家・演出家として活躍する登米裕一が、気になる俳優やドラマ・映画について日常的な視点から考察する連載企画。第二回は、『臨床犯罪学者 火村英生の推理』で主演を務める斎藤工の“セクシーさ”を考える。(編集部)

 『臨床犯罪学者 火村英生の推理』を視聴しながら、私は同性ながら「斎藤工さんはやっぱりセクシーな人だな」と見とれてしまいました。でも、なぜ斎藤さんの演技を観ると、私たちはセクシーだと感じるのでしょうか? そもそも、セクシーとはどういう魅力を指すのでしょうか? 斎藤工さんの演技から、改めて考えてみたいと思います。

 斎藤さんをセクシーだと感じさせる要因はもちろんいくつかありまして、たとえば涼しげな目元や厚みのある唇など、ルックス面に依るところは大きいでしょう。しかし、それよりも私が演出家として見て、特徴的で素敵だと思うのは、彼の声です。
 
 斎藤さんの声は、いわゆる“胸振ボイス”といわれるもので、とても心地よく響きます。“胸振発声法”という言葉を調べてみるとよく分かるかと思いますが、なんとなく字面からも伝わるように、斎藤さんの声は胸の部分を響かせていて、他者に安心感を与える音です。

 一般的に人間の声は、体の高い部分(頭部)を響かせると高い音が出やすく、体の低い部分(胸)を響かせると低い音が出やすいと言われています。意識すれば誰しも胸を響かせて一時的に低い音は出せますが、よほど意識し続けなければ、すぐにいつもの癖で自分の声を響かせやすい場所に戻して発声してしまいます。加えて、普段使わない楽器を使っているようなものなので、一時的に胸を響かせたところで魅力のある発声が出来るかと言うと、なかなか難しいところです。

 斎藤さんはもともとの声質なのか、トレーニングの賜物なのか、音が低いだけではなく、ちゃんと自然な発声になっています。ですが、単に声が低いから、彼はセクシーだと言いたい訳ではありません。彼のセクシーさは、もう少し奥深いところにあります。

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