映画の“高所恐怖”表現はどう進化したか? 『ロイドの要心無用』から『ザ・ウォーク』への系譜

『ザ・ウォーク』の進化した“高所恐怖表現”

ゼメキス監督の実験による、新たな映画表現への一歩

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『ザ・ウォーク』場面写真

 『ザ・ウォーク』の迫真性の鍵を握るのは「アニメーション」だ。ゼメキス監督は、今までにアニメーションと実写の融合を何度も試みてきた。『ロジャー・ラビット』では、実写と2Dアニメの競演、『ベオウルフ』、『Disney's クリスマス・キャロル』などといった作品では、3DCGを駆使しながら、実写ともアニメともつかない、奇妙な味わいの映像を作り上げ、作品としての質の高さを保持しながらも、実験的な試行錯誤を続けてきたのである。『ザ・ウォーク』において、ともすればリアリティのない「つくりもの」に見えることも多い3D表現を、逆に効果的な視覚効果として利用できているというのは、今までの実験的な作品作りの蓄積があってこそである。だから、ここでのCGを駆使した「高所恐怖表現」は、実写映画の演出とアニメーション演出の技術の融合が、監督のキャリアの中でひとつの達成を迎えたという意味で感動的だ。

 大道芸人フィリップ・プティが「空を歩く」ことは、人々が恐れおののく「死」そのものへの抵抗のように見える。本作は、地上411mの世界を、観客に「体感」させるだけではなく、プティが大胆な行動で、しばしの間「死をねじ伏せる」詩的な印象まで写し取っているように感じられる。その野心的な試みの演出には、反逆的な「若さ」がみなぎっている。若手を中心に、現在の多くのハリウッド監督が「レトロ表現」に走るような近年のトレンドのなかで、この60代のベテラン監督は、映画史をしっかりと踏まえながらも、あくまで前を見据えた実験的な作風で、まだ誰も体験したことのない「新しい映画」を作り上げる。その姿勢が何よりも美しく力強い。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

『ザ・ウォーク』 予告

■公開情報
『ザ・ウォーク』
2016年1月23日(土)全国ロードショー
原題:The Walk
原作:「TO REACH THE CLOUDS」 by フィリップ・プティ
監督:ロバート・ゼメキス
出演:ジョセフ・ゴードン=レヴィット、ベン・キングズレー、シャルロット・ルボン、ジェームズ・バッジ・デールほか
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト:http://www.thewalk-movie.jp/

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