成馬零一の直球ドラマ評論

『偽装の夫婦』最終回は新しい家族のかたちを描けるか? 脚本家・遊川和彦の手腕への期待

 
 また、同性愛に対して心理的に抵抗があり、差別発言をしてしまう人間の根底にあるのは、やはり性欲と出産の問題ではないかと思う。例えば、同性愛者のカップルを認めることができるか? と言われたら、大抵の人は「認める」あるいは「個人の自由」と答えるだろう。しかし、異性しか愛せない人が、「もしも同性愛者から付き合ってくれ。と、告白されたらどう答えるか?」と問われたら、答えに迷うのではないかと思う。性行為はできるのだろうか? そして、子どもはどうするのか? そこまで想像力をめぐらせた時、『偽装の夫婦』の切実さは初めて身近なものとなって迫ってくる。

 第9話。離婚したヒロと超治は一年ぶりに再会する。ヒロは水森しほりといっしょに暮らしていた。しほりの娘に「家族になってほしい」と言われたからだ。一方、超治は、保と同棲していた。保は同性愛者ではないが、泣いている超治を見て「この人は俺が守らなきゃ」と思ったという。

 この二組の関係はともに同性愛者と異性愛者の付き合いだ。劇中では性生活の問題は語られていないが、おそらく二組には性生活がないのではないかと思う。しかし、それでも一緒に家族として暮らすことはできる。それこそヒロと超治の偽装結婚がそうだったように。逆に言うと結婚したり同棲したからといって、絶対に性行為をしなければいけないと決まっているわけでもないし、絶対に子どもを産まなければいけないわけでもないのだ。

 このような家族観をごく自然なものとして描けてしまう遊川和彦には、改めて驚かされる。最終話の予告では、再会したヒロと超治が、よりを戻すのかどうかが最大の引きとなっているが、どのような結末になるにしても、同性愛者と異性愛者がいっしょに生きていくことを前向きに描くような終わり方となるのではないかと思う。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

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