『さようなら』公開記念インタビュー

深田晃司監督が明かす、『さようなら』で描いた“メメント・モリ”と独自の映画論

「例外的な演出意図がない限り、絶対にバストショットよりは寄らない」

 

ーー前作『ほとりの朔子』ではエリック・ロメール、今回の『さようなら』ではアレクサンドル・ソクーロフの影響も見受けられます。ご自身が影響を受けた監督や作品へのオマージュを自作の中でも取り入れようというのは、意識的に行っているのでしょうか?

深田:意識的というよりは、そういう性なんです(笑)。僕が映画を撮るのは、映画の現場が楽しいからとかではなくて、小さい頃から本当に映画ばっかり観ていた、ただの映画ファンなので。好きな映画の背中を追っかけて作っているという感じはありますね。やっぱり何か映画を作ろうと考えたときに、「ロメールだったらどうするんだろう」みたいなことは考えてしまいますし。ただ、どんなに参考にしても、真似をしても、オマージュを捧げても、滲み出てしまうものがオリジナリティだと思いますね。

 

ーーターニャとアンドロイドが車で移動するシーンで、引きのロングショットが使われていたのが印象的だったのですが。

深田:単純に車が走っている画が好きなんですよ(笑)。ただ、車中の会話を聞かせると同時に、世界を見せられるという点では意味があるかなと思います。やっぱり人があって世界があるけど、世界があって人があるというか。今回の作品に限らず、僕の作品は比較的引きの画が多いんですね。自分の中でルールとして決めていることがあって、例外的な演出意図がない限り、特に人物を映すときは、絶対にバストショットより寄らない。それは、3人称で描くということだと思っていて。ある特定の登場人物の気持ちや感情に同化するような作り方をするのではなくて、あくまでカメラは一歩引いたところで、関係性をフラットに眺めていくという。その方が観客にとっても、関係性の想像力を自由に広げられるだろうと。なので、そういうことをやっていくと、比較的引きの画が多くなっていくんですね。

 

ーーなるほど。そのこだわりは面白いですね。あと、今回の作品では時間の経過や原発事故後の空気感を表現しているような照明が素晴らしいなと思ったんですが、そこはやはり監督としてもこだわった部分なのでしょうか?

深田:そうですね。照明にこだわってやろうというのは最初から決めていました。もともと照明をちゃんとやろうと思ったのには3つ理由があって。1つは美学的な問題で、単純にああいう陰影の濃い画って美しいと思うので、今回はそれをやりたかった。日本で日常のドラマを描こうとすると、ほとんどが全体照明なので、なかなか陰影って出にくいんですよね。でも、今回は原発が吹き飛んで電気がなくなったという状況設定なので、思いっきりリミット外してできると思って。なので、照明の永田(英則)さんや撮影の芦澤(明子)さんには撮影前から相談して、陰影の濃い、ある意味、語弊はありますが西洋絵画的な画を作りたいと伝えしました。僕の中では2006年に撮った『ざくろ屋敷』という作品と向き合い方は近いので、その作品を観てもらいました。理由の2つ目は時間ですね。今回の作品の場合、時間が流れていくっていうのがものすごい重要で。それは主人公の女性が1秒1秒死に向かっていくという、その時間を描く映画なので、全く静かな画の中でも、確実に時間は進んでいるっていう。それは観客に対して無意識レベルに訴えかけるぐらいでいいと思っているんですけど。そのために、動いていないようなものでも、空間の中で光が揺らいでいたりして、確実に時間は進んでいるんだっていうことを表現したかったんです。3つ目は大気、空気を感じさせるってことですね。放射能の本質的な恐怖って見えないことなんですよね。見えないけど、確実にそこにあるという恐怖だと思うので。見えない放射能を感じてもらうには、最低限でも映像の中に空気が感じられるようにしないといけないと思ったので、光だったり、風に揺れるカーテンだったり、そういうものを意識しました。

 

ーーカメラマンの芦澤さんは黒沢清監督とよく組まれていますが、彼女を起用した理由は?

深田:これまで一緒に仕事をしてきたカメラマンの方も、今新作で一緒に仕事をしていて、素晴らしいカメラマンなんですけど、今回はちょっと趣向を変えたかったんです。あとは、単純に芦澤さんの撮る映像が好きなんです。黒沢さんの『叫』での廃墟のすごい陰影の濃い表現とか、『トウキョウソナタ』での冒頭でカメラがグワーって動いてなめていくような光と影の表現とかが素晴らしくて。是非一緒に仕事をしたいカメラマンの1人だったので、僕としては胸を借りるつもりでお願いしました。

ーー映画の中でも描かれているように、今後アンドロイドが一般的に普及すると思いますか?

深田:既にPepperとかが発売され始めてますけど、今回の映画で描かれているような、何かを介護するようなロボット、癒すためのロボット、コミュニケーションをとるためのロボットっていうのは普及してくるんじゃないかと思います。これは石黒先生も言ってましたが、やっぱりアンドロイドだとおじいさんやおばあさんが抵抗なく話せるらしいんですね。相手に基本的には人格がないから気を遣う必要もないし、これ言ったら怒るんじゃないかみたいなことも気にせずに話せる。あとは今後高齢化社会や少子化が進んでいけば、当然介護や老後の孤独が問題になっていきますよね。そういった意味でも、孤独死を癒す存在、あるいは孤独に死んでいく人を看取る存在としてのアンドロイドは、今後どんどん増えていくんだろうなと思いますね。

(取材・文=宮川翔)

■公開情報
『さようなら』
11月21日(土)新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
脚本・監督:深田晃司
原作:平田オリザ
アンドロイドアドバイザー:石黒浩
出演:ブライアリー・ロング、新井浩文、ジェミノイドF、村田牧子、村上虹郎、木引優子
配給・宣伝:ファントム・フィルム
(c)2015「さようなら」製作委員会
公式サイト:http://sayonara-movie.com/

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