現役看護師が『コウノドリ』の魅力を探る
ドラマ『コウノドリ』は「生まれる」現場をどう描いたか? 現役看護師が分析
産婦人科の医療現場を舞台に、その人間模様を描いたドラマ『コウノドリ』。鈴ノ木ユウの同名漫画を原作としたこの作品は、新鮮な顔ぶれが揃ったキャストはもちろん、綿密な取材によりリアルに現場の模様を再現していることでも話題だ。そこで、現役の看護師としても活躍するライターの内藤裕子氏に、医療現場の知見をもとに観た同作の魅力を考察してもらった。(編集部)
『コウノドリ』が伝える、産婦人科のリアル
綾野剛連続ドラマ単独初主演として注目を集めた本作、10月16日(金)の初回放送(10分拡大)は、視聴率12.4%にてスタートした。
『コウノドリ』第1話は、ネットカフェで破水した若い「未受診妊婦」がペルソナ総合医療センターに搬送されるシーンから展開する。「未受診妊婦」とは、妊婦健診を受けていない妊婦のことだ。出産まで健診を行っていないため、妊娠合併症やウイルス性肝炎、HIVなどの深刻な感染症を患っていることも想定される。よって院内感染のリスク回避のため、医療機関によっては受け入れを拒否されるケースもあり、いわゆる「たらい回し」の対象となってしまいかねない。
平成23年12月、東京都保険局医療政策部によると、調査対象者となった「未受診妊婦」の約半数が25歳未満であり、全体の7割が婚姻しておらず、3分の1以上がパートナーとの連絡が取れないという。なぜ「未受診妊婦」になってしまうのか。主な理由は経済的な問題という。
今回、「未受診妊婦」が、物語の核となる清水富美加演ずるところの矢野夏希という女性である。パートナーの借金を背負い、妊娠が発覚するとあっさりと捨てられ、途方にくれるうちにお腹の子どもはどんどん大きくなってしまう。幼い頃に父親が愛人をつくって出ていってしまい、育児ノイローゼに陥った母親にモラルハラスメントを受けながら育ったため、家族とは疎遠で頼る人もいない。病院に受診するにも、金融業者に足がついてしまうため、役所にも行けず、そのまま臨月を迎えてしまうのだ。
そんな矢野の受け入れのオンコールが、熱烈演奏中の謎のピアニスト・BABYのもとに届く。ライブを中断して、壇上を去る銀髪の男性こそ、主人公、綾野剛演ずる産科医鴻鳥サクラである。
現場に到着したコウノトリ先生の指示は、実に鮮やかだ。まず看護師に新生児室NICU(新生児集中治療室)に連絡するように指示、研修医の下屋加江(松岡茉優)に手術室の空き状況を確認、帝王切開手術中の産科医の四ノ宮春樹(星野源)の終了時間を想定し、受け入れを決定する。動揺を隠せない下屋に対して検査科に連絡を指示、「未受診妊婦」のサポートも想定し、メディカルソーシャルワーカー向井祥子(江口のりこ)の手配もした。連絡を受けNICU、周産期医療センター長の今橋貴之(大森南朋)は新生児の感染リスクに備え、もしものときに他院でのフォローも想定し、搬送用の保育器を用意するよう、新生児科の研修医白川領(坂口健太郎)に手配する。そこに「未受診妊婦」が到着し、偶然BABYのライブを観にきていた、助産師の小松ルミ子(吉田羊)が駆けつけるという設定だ。
ドラマ開始15分あまりで産婦人科医、研修医、看護師、助産師、メディカルソーシャルワーカーと「生まれる」現場の立役者は揃った。