【追悼】ちばてつやが『あした天気になあれ』でゴルフ界に与えた功績 魔法の呪文「チャー・シュー・メン」

10月22日、漫画家のちばてつやが87歳でこの世を去った。代表作『あしたのジョー』をはじめとする数々の名作で昭和から世を熱狂させてきた巨匠だが、日本のゴルフ界、とりわけ市民レベルのゴルフ普及において彼が遺した功績もまた計り知れない。その象徴が、1981年から「週刊少年マガジン」で連載されたゴルフ漫画の金字塔『あした天気になあれ』であり、主人公・向太陽(むかい・たいよう)が唱えた魔法の呪文「チャー・シュー・メン」である。
今でこそ老若男女が楽しむスポーツとなったゴルフだが、連載開始当時の日本において、ゴルフは依然として「高価格な大人の貴族趣味」であり、一般の少年少女にとっては敷居の高いものだった。そんな時代に、ちばは東京・足立区の荒川河川敷を舞台に、中学生ながらひたむきにプロを目指す太陽を主人公に据え、ゴルフというスポーツを大衆の身近な存在へと変えた。
劇中で誕生した、スイングの基本リズム「チャー・シュー・メン」の掛け声は、理想的なスイングテンポを誰もが覚えやすい言葉で表現したものだ。打ち急ぎに悩む多くのアマチュアにとって、この掛け声は自然と「トップでのタメ」を作るためのヒントとなり、難解なゴルフの基本を誰もが直感的に理解できる言葉にしたのである。
その影響力はアマチュアに留まらない。訃報を受け、日本ツアーで4度の賞金王に輝いた中嶋常幸は、「『あした天気になあれ』は当時の若い世代にゴルフの面白さを伝えてくれた」と回顧。さらに、「あの『チャー・シュー・メン』と唱えて打つ方法は、練習法として一つのアイデアだと思う」と称賛した。また、父親がアニメで観ていたという渋野日向子も、「ゴルフ界に影響を与えている文言ですから、自分も影響されている。“チャー・シュー・メン”はみんなの合言葉」とコメント。2020年の米ツアー参戦時にショットの不調に苦しんだ際に、「口には出さないけれど、ずっと心の中では“チャー・シュー・メン”と言いながら36ホールを回った」というエピソードを披露するなど、作品の影響は現代のトッププロにも受け継がれている。
スポーツ漫画の歴史という大きな視点で見ても、本作の革新性は際立っている。1960〜70年代の漫画界は、ちば自身の『あしたのジョー』を筆頭に、血と汗と涙、そして「自己の破滅」すら辞さない壮絶な“スポ根ブーム”が全盛だった。しかし、ちばは1980年代の本作において、「命をかける悲壮なスポーツ」から「人生を豊かにし、楽しむためのスポーツ」へと、描写の価値観を大きく転換させた。カラリと明るい太陽がまっすぐにゴルフを楽しむ姿は、後の『キャプテン翼』や『スラムダンク』へ繋がる「競技の魅力を純粋に愛して成長するモダンなスポーツ漫画」の源流となったのである。
物語終盤、全英オープンに出場した太陽は帝王ニクラウスとセント・アンドリュースで最終日に死闘を繰り広げるが、作品には「スポーツを楽しむ心」と「あきらめない情熱」が共存していた。ゴルフの面白さや奥深さを、世代を超えて伝え続けてきた『あした天気になあれ』。その象徴とも言える「チャー・シュー・メン」の掛け声は、これからも多くのゴルファーに親しまれ、ゴルフを楽しむ人々の心に生き続けることだろう。























