『運命の巻戻士』は子供の「漫画を読む力」を引き上げた? 「第71回小学館漫画賞」贈呈式で島本和彦が賛辞贈る

「第71回小学館漫画賞」の贈呈式が10月21日に開催された。今回は『運命の巻戻士』(木村風太)、『COSMOS』(田村隆平)、『ダンダダン』(龍幸伸)、『出禁のモグラ』(江口夏実)、『ひらやすみ』(真造圭伍)の5作品が選出された。式では小学館社長・相賀信宏から、それぞれに賞状、正賞のブロンズ像、副賞100万円が授与されたほか、『ポーの一族』などで知られる萩尾望都に審査委員特別賞が贈られた。審査委員を務めたのは曽山一寿、川村元気、高瀬志帆、島本和彦、松本大洋、嶋木あこ、ブルボン小林の7名。

贈呈式では審査委員が作品への講評を述べ、受賞者が喜びを語った。審査委員で最初にマイクの前に立ったのは、「でんぢゃらすじーさん」シリーズなどで知られる曽山一寿。タイムループを扱う木村風太の『運命の巻戻士』について、曽山は「結構複雑なことをしており、『コロコロ』を読んでいる読者には少しわかりづらいのではないかと心配だった」と語る。そのうえで「しかし木村先生の圧倒的なストーリーの面白さ、抜群の演出、作画の素晴らしさ、そしてキャラクターの魅力で、蓋を開けてみたら1年連続読者アンケート1位という『コロコロコミック』初の快挙を達成した」と、複雑な設定を魅力的な児童漫画に落とし込んでみせた木村の手腕を称賛した。
同じ「月刊コロコロコミック」に作品を掲載する曽山に「『コロコロコミック』を読んでいる子供の漫画を読む力を、一段階上げてくれた作品」とまで言わせた木村は、「『コロコロコミック』にしては複雑なことをやっているんですけど、それを読者が読み解いて、難しいことを理解して、面白いと言ってくれているのをすごく感じる」とコメント。「子供の読者の力でここに来れたと思っているので、一番『コロコロ』を読んでくれている小学生に感謝したいと思います」と、読者への感謝を口にする。最後は「一生『コロコロ』で描きたいと思っています。『コロコロ』最高!」と宣言した。
次に映画プロデューサー、映画監督、脚本家として活動する川村元気が、田村隆平の『COSMOS』の講評を述べた。贈呈式の前に改めて最新巻までを読み直したと前置きしたうえで、「当然漫画は話が進むにつれて世界観が大きくなったり深くなったりするんですけど、元々持っている保険屋さんだったりお金にまつわる話だったり、ドライなテーマで人間の感情を客観的に見ている切れ味がずっと失われずに連載が続いているのが素晴らしい」と語る川村。「『COSMOS』のような大好きな作品にも出会えて感謝しています」と、一読者としての喜びを講評に添えた。
田村は「まだ終わりの見えていない『COSMOS』がこのような賞をいただけるのは、『責任持って最後まで描けよ』ということだと思う」と先を見据える。「慢心せずこれからも漫画と誠実に向き合い、1話1話丁寧に描いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします」と兜の緒を締めた。

龍幸伸の『ダンダダン』に言葉を贈ったのは、『二月の勝者 ―絶対合格の教室―』などを描く高瀬志帆だ。講評の前半ではほかの審査委員のコメントも紹介し、自身は『ダンダダン』を「幕の内弁当」と表現。要素を詰め込みすぎるとストーリーラインがブレてしまうため、普通は削る方向に行くと語りながら「読者さんの読みたい気持ちに応えるため、『ダンダダン』は全部を入れていて、それを熟達した技術で料理している。こんなに豪華な『幕の内弁当』は見たことがない」と作風の幅の広さを称賛した。
龍幸伸はマイクの前に立ち、担当編集者である林士平への感謝を口にした。「林さんは本当に作家ファーストの編集者で、漫画家のコンディションが良ければ面白いモノが作れると本当に信じている人。こういう漫画を描きたいと言ったら資料をバーンと送ってくれることもあって、本当に助かった」と語る。最後は、「もちろん手伝ってくれているスタッフのみなさんの力もすごく大きく、自分一人ではできなかった作品です」と周囲への感謝も語り、席へと戻った。
次に舞台の中央に立った『炎の転校生』などで知られる島本和彦は、『出禁のモグラ』で受賞を果たした江口夏実に、「おめでとうございます!」と大きな声でまず一言。「『漫画』というモノは、個人の想いをぶつけて作る、すごく稀な作品の作り方をしているエンターテインメント」と、漫画作りについて言及する。そして、「『出禁のモグラ』からは作者の気持ちがダイレクトに伝わってくる、私はこれがものすごく羨ましい」と、漫画家としてのリスペクトを表現した。
『出禁のモグラ』はセンシティブな内容も扱っていると語った江口は、「作品には、私や友人の実体験がかなり盛り込まれています。みなさんが『ここは実体験であってほしくないな』と思うところほど、実体験で描いてある作品です」と解説。最後は、「担当編集者さん、アシスタントさん、すごく頑張って手伝ってくれている妹に感謝いたします」と締めた。
「実在するかのようでキャラクターがすごく魅力的」と真造圭伍が描く『ひらやすみ』の印象を語ったのは、『ピンポン』などの代表作を持つ松本大洋だ。「最初に出てくるはなえさんを見て、本当にすごいなと思いました。描いていて一番難しいのって自分より年配の人で、はなえさんを見たときに『やられた、とても僕は描けないな』と思い感動したんです」と、キャラクター創作の巧みさを称賛した。
贈呈式の前日に『ひらやすみ』の最終回を描き終えたという真造は、「自分の納得のいく最後を描くことができてすごくホッとしています」と安堵の声を漏らした。「それは編集さんとアシスタントさん、漫画を描く自信をくれた家族、ネガティブな自分を明るく支えてくれているパートナー、本当にみなさんのおかげです」と続けた。
日本の漫画が「文学・芸術」として評価される礎を築き、国際的な海賊版対策においても先導的な役割を果たした功績に対し、審査委員特別賞を受賞した萩尾望都。萩尾はデビュー直後の1970年代の自身について、「ネームを送ってはボツになり、プロットを送ってはボツになりというのが続いていました。そんなとき小学館『少女コミック』編集部の山本順也さんという方に出会って、ボツになった原稿を見せたら『俺が全部買ってやるよ』と言われ、そこで小学館に移りまして」と回想。「作家にとって描く場所があって、載せる本があって、その本を出版してくれる出版社があって。小学館が長年にわたってそのような場を提供してくださったことを、本当に感謝しています」と、本漫画賞を主催している小学館への感謝を言葉にした。

























