なぜ『宇宙戦艦ヤマト』はアニメ界を変革できたのか? 破天荒プロデューサー・西崎義展によるヒットの裏側
『ヤマト』再始動の波と「オタク第1世代」の衝撃
『宇宙戦艦ヤマト』の周囲が、最近またしても騒がしくなっている。庵野秀明が監督・企画・制作総指揮を務め、出渕裕が共同監督として参加する『宇宙戦艦ヤマト√2199』の制作が発表され、さらに同じく庵野氏が企画・プロデュースを務める「宇宙戦艦ヤマト 全記録展」の巡回も発表。「全記録展」は2026年12月に東京・北千住マルイで開催されたのち、戦艦大和建造の地である広島・呉の大和ミュージアムで開催されるという。
個人的な意見ではあるが、『宇宙戦艦ヤマト』ほど受け取る側の世代によって印象の異なる作品も珍しいと思う。本作を中学生くらいの年齢でリアルタイム視聴した、いわゆる「ヤマト世代」の人々にとっては、『ヤマト』はとてつもない衝撃のあった作品であるらしい。一方で、自分のようなのちの世代の人々にとっては、最初の『ヤマト』の衝撃はなんだかどうにもわかりづらいところがある。同じ70年代の作品で、同じように長く人気を保ったSFアニメである『機動戦士ガンダム』の面白さがかなりわかりやすいのに比べると、後から試聴して面白さを理解するのが難しい作品ではないかと思う。
真に衝撃的な作品の多くがそうであるように、おそらく『ヤマト』において新しかった部分はのちに続いた数多くの作品に拡散され、普遍的なものになってしまったのだろう。今となっては中高生やそれ以上の年齢層に響くようなアニメを作るのは当たり前だし、作中に登場したメカの正確なスケールモデルが発売されるのも当たり前である。「中高生が見ても面白く見られる、本格的SFアニメ」という存在が何も珍しくない今、その衝撃を同じように追体験しようとしても難しいはずだ。
また、テーマと時代性という要素もある。「大宇宙に乗り出し、人類のために戦う宇宙戦艦のロマン」と言われても、今となっては「なんだか大仰だな……」という感じがしてしまう。しかしおそらく、アニメで大真面目に「ロマン」を語り、人類全体のために戦う宇宙戦艦という大仰なテーマを扱うことが、当時は底抜けに新しく感じられたはず。テレビまんがと呼ばれ子供番組でしかなかったアニメにおいて、大仰で大真面目なテーマを扱うこと自体が、当時としては全く新しいことだったのである。
子供向け作品の中に、大人も唸らせるような深いテーマを込めた作品は、当時すでに存在していただろう。しかし『ヤマト』は、中高生にもはっきりとわかるくらいテーマを全面に押し出し、そしてその周囲を魅力的なメカ・キャラクター・設定で彩った。この「高年齢層にも訴えかける大仰なテーマを、アニメ作品内で大真面目かつ大々的に扱った」という点で『ヤマト』は日本のアニメ業界を変革し、ひいてはオタク第一世代という人々を生み出した。偉大な作品なのは間違いない。
破天荒すぎる独立プロデューサーの真実
よく知られていることではあるが、この『ヤマト』を生み出したのは元々アニメ業界にいた人物ではない。そもそも、どこかの組織に属していた人物ですらない。アニメ業界に食い込む前は芸能プロデューサーとして歌手などの興行を手掛けていた、西崎義展という人物である。この西崎のことを詳しく書いた本が、2015年に刊行された『「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気』だ。『ヤマト』が再び盛り上がるであろうこのタイミングで、作品の原点に触れるためには重要な一冊となっている。
本書に書かれている西崎の人物像は凄まじいの一言に尽きる。180cmはあろうかという長身にビシッとスーツを着こなし、若い頃には役者を目指していた時期もあったという端正な顔立ち。ショービジネスの世界に通教し、裏社会との接点もあり、猛烈に金遣いが荒いかと思ったら値切る時は徹底して値切り、猜疑心が強く、そして女癖は恐ろしく悪い。『ヤマト』の製作によって莫大な財産を築いたにもかかわらず膨大な借金にまみれ、麻薬や銃器の所持によって服役。最後は小笠原・父島にて船上から海に転落し、そのまま死亡した。破天荒という言葉ですら生ぬるい、めちゃくちゃな人物である。
そもそも独立プロデューサーという仕事は、普通の人間には務まらないものだ。作品を作るための膨大な資金やスタッフを組織ではなく個人の器量で集め、作品が完成するまでの面倒を見て、当たれば天国、外れれば地獄という仕事である。特に西崎が活躍した昭和後期はまだ社会的にも色々な部分がラフで荒っぽかったこともあり、極めて投機的な側面の強いヤマ師のような職種だったと言っていい。強烈な面の皮の厚さと謎の人間的魅力、そして強靭な胆力とクソ度胸がなければできない仕事で、西崎という人はそのどれもを備えていたことが、『「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男』には書かれている。
本書に書かれている西崎のエピソードはどれもエグく、「こんな人と一緒に働いたら冗談抜きで死ぬな……」と思わされるものがあるが、同時に西崎はロマンの人でもあったらしい。人に対しては「君は愛する人のために死ねるか」と本気で問い、大宇宙を駆ける宇宙戦艦の姿を描写するべくアニメーターに発破をかけ、自分のビジョンを実現するために全精力を傾ける。しかし「愛する人のために死ねるか」と問う本人は、大量の愛人を抱えているのである。この矛盾を抱えつつも、本人は自分のロマンに完全に没入できる人物だからこそ、『ヤマト』という空前絶後の作品を完成させることができたのだと思う。
現代のオタクビジネスに通じる革新的プロモーション
本当に西崎という人はあらゆる面ですごすぎ、何がどうすごいのかは本書を読んでもらうしかないのだが、もうひとつ『ヤマト』について書いておくなら、西崎らによるプロモーションの方法が恐ろしく洗練されていたという点がある。よく知られているように、当初テレビ版の『ヤマト』は視聴率で苦戦した。が、当時の中高生には全国に大量のファンクラブが作られるほど刺さり、再放送によって人気が急上昇。この反響を受けて、最初の放送から2年を経て西崎は劇場版『ヤマト』の公開へと踏み切る。
この劇場版はテレビ版を再構成したものだったのだが、公開にあたってさまざまなプロモーションが試みられたことが本書には書かれている。ファンにポスターを2枚ずつ配り、1枚は目立つ街頭に貼らせ1枚は自分のものにしていいという「ポスター作戦」。ファンに『ヤマト』主題歌とエンディングテーマのリクエストハガキを音楽番組に送らせて、楽曲を繰り返し流させる「リクエスト作戦」。劇場公開時に先着順にセル画を配り、初期の入場者にはサウンドトラックのレコードを渡す「プレゼント作戦」。さらに設定資料などを収録した豪華本の出版や各種マーチャンダイジングの展開など、西崎はありとあらゆる方法を試みている。
劇場での特典配布やファンクラブを巻き込んでの広報活動、マニア向け関連商品の発売など、これらの手法はすべて現代にも受け継がれている。当時の若者にとっては「自分たちが熱狂でき、そして自分たちが当事者となって盛り上げられるアニメ映画」というものは完全に存在しなかったわけで、これらのプロモーションに巻き込まれる経験は今となっては理解できないほど新しく、楽しかったのではないだろうか。つまり西崎は、単に作品を鑑賞するだけではなく、積極的に作品自体を盛り上げるファン活動のありよう、今でいう「推し活」的オタク消費の原型を作り上げた人物でもあるのだ。
西崎本人はマニアックな嗜好を持ったオタクというわけではなく、言葉を選ばずに書けば俗物かつ悪党とでも言うべき人物である。しかし西崎が従来のアニメ業界の慣習に染まらず、自分の思ったことを好き勝手に実現しようとするアクの強い独立プロデューサーだったからこそ、現在に繋がるオタク消費の基礎を築くことができたのは間違いない。今や日本中に広がったオタク消費、推し活的経済活動のルーツを探るための資料としても、『「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男』は重要な一冊なのだ。
■書誌情報
『「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気』
著者:牧村康正、山田哲久
価格:1,720円
発売日:2017年12月22日
出版社:講談社
レーベル:講談社+α文庫