なぜ日本の子育てはこれほどつらいのか? 藤田孝典に聞く「バラマキ給付金で根本解決はしない」

2026年6月に厚生労働省が発表した2025年の人口動態統計によると、1人の女性が生涯に生む子どもの数を示す合計特殊出生率は1.14と過去最低の数字となった。政府のさまざまな対策もむなしく、少子化が止まらない。
これまで貧困に関する著書を多く手掛けてきた藤田孝典は、10月8日に発売された著書『日本ではなぜ子育てがこんなにつらいのか カネと自己責任の資本論』(ちくま新書)で、少子化の背景にある「子育てのつらさ」を分析し、その打開策を提示している。今回は実際に福祉の現場でさまざまな親と子どもたちを見てきた藤田に、本書を手掛けたきっかけ、本書に出すことによって目指すものを聞いた。
深刻化する生活苦と支援のリアル

ーーこれまで、『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』(朝日新書)や『貧困世代 社会の監獄に閉じ込められた若者たち』(講談社現代新書)など、さまざまな貧困問題を取り上げてきました。今回の著書で「子育て」にフォーカスしたきっかけを教えてください。
藤田孝典(以下、藤田):これまでの『下流老人』も『貧困世代』も、福祉の現場で見えてきたものを抽出したもので、今回の『日本ではなぜ子育てがこんなにつらいのか』(以下、本書)も同じように現場から生まれたものです。2020年からのコロナ禍以降、物価高が続いたこともあって、相談に来る保護者の方、あるいは子どもたちがかなり深刻な事態になっていることが増えているんです。もちろん、これまでもシングルのお母さんや子どもたちは大変だったんですけど、それに輪をかけて生活に苦しんでいたり、ストレスから虐待を受ける子どもたちのSOSが、目立つようになってきています。
ーーコロナ禍の影響は今も大きいのでしょうか?
藤田:いまだに引きずっていると思います。コロナ禍で会社が倒産した方、失業した方、給料が減ってそのままという方は相変わらずいます。そこに物価高が襲いかかっているので、子育て世代の方は、家計的に厳しい状態が今も続いています。
ーーコロナ禍が明けて3年以上、経済はだいぶ持ち直したように思えますが、貧困の問題は拡大しているのでしょうか?
藤田:二極化しているんだと思います。株価もあがり、経済も活性化しているので、タワマンなどが買える富裕層にとっては暮らしやすくなっているかもしれません。ただ、私たちが見ている中間層・低所得層は、賃金があがっても物価高に追いついていない状態で、実質賃金はむしろ下がっています。格差の開きは、深刻化していると思います。
なぜ子育ては昔よりもお金がかかるようになったのか

ーー本書では、少子化の背景には育児にかかる経済的なコストの増大が、影響しているとされています。なぜ以前よりも増えたのでしょう?
藤田:たとえば昔なら、夏休みはおじいちゃんおばあちゃんの家に子どもを丸投げしておけば、ある程度は済んでいたものが、今はおじいちゃんおばあちゃんが近くにいないことも多く、頼れる近所のコミュニティが希薄になっています。そうなると遊園地のように、お金を払うことで遊びを提供してくれるところに連れていかなければならない。
本書でも指摘していますが、昔ならお金を払わなくてもコミュニティが代替してくれたものが、お金を払えばやってあげるよというものに変わっているんです。典型的なのは、塾などの習い事です。昔なら親戚の人や近所の人が勉強を教えてくれたり、お兄ちゃんが泳ぎ方を教えてくれていたものが、教育商品としてあらわれてきています。昔よりも今のほうが、なにかとお金がかかる状況になってきているのです。
ーーまずはコミュニティの消滅。さらに、なにをするにもお金がかかる状態が原因ということでしょうか。
藤田:親の不安を煽るような、広告宣伝も増えています。子どもに対して、こうしておかなければならない、これをやっておかないとちゃんとした大人になれないよと言って、育児の不安を煽る。その圧力が高まっているように思います。本当はそんなことをしなくても、別にいいはずなんですが。
ーー子育てにかかるお金については、国がさまざまな支援を行っていて、これには賛否の声もあります。藤田さんはどうお考えですか?
藤田:よくないのは、後先を考えない現金給付です。現金を渡しておけばごまかせるだろうという、本質的な原因を見ないでバラマキをする政策が2020年以降、乱発されています。一時的には、お金をもらえてよかったとなっても、根本的な原因解決にはなりません。ずっと本で書いていることですが、ベーシックサービス、教育費の無償化や、住宅費や子育ての費用を低くおさえられるような、それも恒常的な政策が、本来は必要なのだと思います。
実際は、現金を出すことが行政にとって一番、楽だからなんだと思います。結局、子どもの貧困は変わらず深刻ですし、虐待の件数も右肩上がりになっていて、その効果は疑わしいものです。場当たり的な対応で、政治家や官僚側がなにかやった感じになっているのが、一番の問題だと思います。
ーーそれでは、どういう形での支援が必要だとお考えですか?
藤田:福祉の現場でいえば、まず依存先を増やすことが重要だと考えています。たとえば子育ての場合、お父さんとお母さん以外が関わらない、親だけが抱えている状態が増えています。そこをおじいちゃんおばあちゃんや親戚の人、近所の人たちに関わってもらったり、あるいは子ども食堂だったり、育児の役割、親の責任を分散することが大事なんです。
収入の面でも単に働くだけでなく、国の手当、あるいはフードバンクという余剰の食料品を配っている団体とつながって家計を助けていく。周囲との関係性でも、経済的にも、とにかくいろいろなところとつながっておくこと、それを実現する支援が必要だと考えています。
子ども食堂は「緊急避難場所」に過ぎない?
ーー支援の場として、子ども食堂が広く知られています。本書ではその現状と課題に言及していますが、現在の問題点、そして目指すべき姿を教えてください。
藤田:本来は貧困家庭が生まれる構造を、まず変えなければいけないんだと思います。子ども食堂については、その問題に関して絆創膏を貼るような、あくまで一時的な手当てであって、それはそれでとても大切なことです。ただ、子ども食堂は一時的な緊急避難場所であると私は考えていて、本来の子どもたちの居場所である家庭や学校がきちんと機能するべきであり、そこに介入していく政策が必要だと考えています。
また、運営している人たちのやりがい搾取が起こっているところも問題だと思います。福祉の現場では、困っている人を助けたことで気持ちよくなっちゃうことがあるんです。今の子ども食堂は、おじいちゃんおばあちゃんがやりがいを見つけて一生懸命にやってくださっているのはいいんですが、その次の一歩こそが、必要なんです。やっている本人たちが自己満足するだけでなく、そこに来る子どもたちを生まないで済むような政策提言をする、社会に訴えていくべきだと考えています。子ども食堂がこれだけの広がりを見せているなら、そこから声をあげていくことはインパクトもありますし、社会を動かす力があるはずです。そのことに多くの人が気づいてくれればいいなと、思っています。
子育てはいつから「家族だけの自己責任」になったのか
ーー本書では、かつて、育児は公のものだったと書かれています。現在はそうではないということですが、育児が公から切り離されてしまった原因はなんでしょうか?
藤田:子どもは、将来、地域や社会を発展させてくれる、あるいは自分たちがやっていることを継続してくれる、そういう存在だという認識があったはずなんです。だから、かつては大学教育まで含めて教育コストは低かったし、親も本人の負担も軽かった。ただ、一時期から新自由主義的な、教育、育児の受益者は本人や家族だという認識に変わってきました。
実際に私たちも、なんのために仕事をしているのか聞かれたら、お金を稼ぐため、自分や家族の生活をよくするためと答えるのが普通になっています。自分、そして家族を守るだけで精一杯になっている人が、90年代以降、増えているんだと思います。結果、社会と家族、個人が切り離されて、子どもたちが将来の担い手だという見方が薄れてきたんだと思います。
ーー自分の子は守るけれど、よその子は守らない。育児が公のものではなく、家族だけのものになっているということですね。
藤田:まさにその通りです。昭和の時代も良し悪しだと思いますけれど、子どもというのはまわりのみんなでごはんを食べさせてあげたり、叱ったりするようなコミュニティが残っていました。今は勉強ができないとなると、教えてくれる大人がまわりにいないので、塾に行かなければならない。お金がかかりますし、お金がなければ、自分にリスクが生じたときに対応できないということになりがちです。
子どもって、本来は最も非営利的で公共的な存在であり、お金のあるなしに関係なく、多くの人たちが向き合うべき対象だったんです。それが残念ながら、家族、お父さんお母さんの所有物のようになっているので、親が親としてちゃんと機能できなければ、子どもは不登校になってしまうし、家出をしてしまうし、自殺まで考えてしまう。そんな例が増えています。親が悪いわけではないシステムの問題なのですが。
子育て問題の解決のために、私たちにできること
ーー私自身、子育てはほぼ終えた身なのですが、これら育児に関わる問題は看過できないものだと思います。解決のためになにかアクションを起こすとしたら、どのようなことができますか?
藤田:子ども食堂だと思います。まずは子どもと出会える場所にいかなければ、問題も見えてきません。今は入口としてはハードルも下がっていますし、子ども本人と保護者が来てくれる場所というのは、ほかになかなかないので。ボランティアで参加するのもいいですし、ふらっと行って、一緒に食事をするところから始めるのがいいと思います。今は子育てに無償で関わってくれる大人が減っているので、子ども食堂以外でも、PTA活動に参加するのもいいですし、まずは子どもたちと出会える場所に足を運んでいただきたいです。
ーー実際に育児をしている人はどうでしょう?
藤田:私も子どもがいますので自戒を込めてですが。これが正解だと親が言わないようにすることです。意識的、無意識的にせよ、親が提示をせずに、子どもがいろいろな道を選べるような関わり方をしたほうがいいと思います。もちろん、子どもが間違っているときは叱りますが、正解を与えすぎない、方向性を決めつけないことは大事なのではないでしょうか。
全世代に届けたい、社会の仕組みを変えるための声
ーー今回の本は、どんな人たちに読んでもらいたいですか?
藤田:全世代型をイメージして作ったので、政治、政策に関わる人たちから、なんで若い人たちはこんなに子育てで苦労しているんだろうと思っているおじいちゃんおばあちゃん世代、あとはやはり子育て世代の人たちや、子ども食堂に関わっている人たちです。世代を問わず、なにかしら感じ取れるもの、気づいてもらえるものはあると思うので、幅広い方たちに手に取っていただきたいです。
私自身、小学生と中学生の子どもがいて、大学で教えている生徒も子どものように関わっています。とにかくどこの子どもたちと会っても、みんな苦しそうなんです。だけど、その苦しみの原因は本人たちにあるわけではないし、親が与えているものでもありません。これは2026年の現在、社会全体の仕組みから生じているものなんだということを、わかっていただきたいです。だから、自分を責めようとはせず、社会に訴える声をあげていってほしい。そのためにも、まずはこれらの問題に気づく、そして連携して声をあげていく、そのきっかけになればいいなと思っています。
■書誌情報
『日本ではなぜ子育てがこんなにつらいのか カネと自己責任の資本論』
著者:藤田孝典
価格:1,012円
発売日:2026年10月8日
出版社:筑摩書房
レーベル:ちくま新書
























