「電撃小説大賞」出身作家は粒揃い? 草森ゆき、柴野日向ら気鋭の作家の注目文芸5選
『少女小説を知るための100冊』や『少女小説とSF』などの著作で知られる書評家の嵯峨景子が、近作の中から今読むべき注目のライト文芸をピックアップしてご紹介する連載企画。今回は実石沙枝子のジュブナイルSFからぷにちゃんによる“ものづくりファンタジー”まで、5タイトルをセレクト。
草森ゆき『ばけもの食道楽紀行』(メディアワークス文庫)
異形の父と人間の母の間に生まれた化け物・不知火。人間の恐怖や悔恨を好む不知火は、人を襲っては喰い殺す日々を送っている。ある日、春之介が暮らす山奥の村が不知火に襲われるが、故郷を恨む彼は村民が襲撃されるのをただ黙って眺めていた。不知火に怯えず、一人だけ生き残ってしまった春之介は、美しい化け物に魅入られて一緒に旅立った。
いつか自分を喰らうかもしれない相手を旅の道連れに選んだ春之介と、長い間一人で生きてきた不知火。それぞれに孤独を抱えた二人は、煙を吐く骨の村や、大蛇が守る湖、過去を覗く異形、抜け出せない夜など、さまざまな怪異や人間と関わりながら旅を続けていった。危険を乗り越える中で、二人の関係も少しずつ変わっていくのだが……。
「第32回電撃小説大賞」の奨励賞を受賞した本作は、ばけものと人間の奇妙な旅路と絆を描く和風幻想譚。不知火が人間を容赦なく喰い殺す様は恐ろしく、残酷な描写も少なくない。それにもかかわらず、作品全体を包み込んでいるのは不思議なほどの静けさと心地よい寂寥感だ。お互いへの執着を強めていく二人のどこか歪な姿や、独特の世界観も、読者を魅了してやまない。バディものや異種婚姻譚が好きな人におすすめの一冊だ。
実石沙枝子『燃える夜空に星ちりばめて』(双葉社)
未曽有の被害をもたらした第四次世界大戦。世界の都市の多くは壊滅し、世界は荒廃した。三代目ユリ将軍が支配する「六番ユニオン」では、軍部による検閲を経た情報しか流通を許されず、人々は文字を綴る営みも、自由な思考すらも奪われている。
「ペッパーズ・アーミーギルド」で働く傭兵のスピカは、幼少期に施された身体改造により機械の翼を持ち、空を飛んで違法な郵便物を運んでいる。エンジニア兼闇医者のイルや、軍部と謎のコネクションを持つ頭領のマダム・ペッパーなど、信頼できる仲間に囲まれながらも、スピカは消えない罪の意識に苛まれていた。両親を殺され、妹と生き別れたスピカは、生き延びるためにかつて戦場で大きな罪を犯したのである。そんなスピカはある依頼をきっかけに、ユニオンを揺るがす革命に巻き込まれていくのだが……。
気鋭の作家が手掛ける珠玉のジュブナイルSFは、機械の翼で生きる少女スピカの孤独と哀しみを、詩情豊かに描き出す。違法な郵便物を運ぶスピカは、過酷な育ちゆえに文字を読むことができず、胸にあふれる感情を言語化できないでいた。文字や言葉にふれる中で少しずつ目覚める少女の姿と、光と希望に満ちた結末は、読者の心にも勇気をもたらすだろう。
柴野日向『あなたが生きるこの世界で』(ブシロードノベル)
「第32回電撃小説大賞」のメディアワークス文庫賞を受賞した『雨、時々こんぺいとう』で鮮烈なデビューを果たした作家による、青春SFストーリー。
夏休みのある日、皐は交差点で途方に暮れる少年を見かけた。その姿はこの世ならざるものが視える皐にしか見えておらず、トワと名乗る少年につきまとわれてしまう。トワは記憶を失っており、自分がなぜこのような状態になっているのかも思い出せない。彼を成仏させようとお祓いへ連れて行った皐は、そこで同じようにトワの姿が視えるという不思議な少年・リョウと出会った。やがてリョウは自らの正体を明かし、トワがかつて犯した罪を突きつける。平行世界を渡ってきた彼の目的は、仲間を裏切って逃亡したトワを殺すことだった――。
物語は皐が暮らす現実世界と、トワとリョウが極限の状況下で生き延びようともがく平行世界を行き来しながら進む。かつては強い信頼で結ばれながらも、今は互いを深く憎み合うトワとリョウの関係が切なく、ディストピア的な世界観と相まって忘れがたい余韻を残す。夏の気配とともに描かれる少年少女の切ない感情。美しい物語の結末で、読者は大きな驚きに包まれることになるだろう。
高井うしお『呪いと猫の後宮夜話 月夜のまじない妃と眠れない皇帝』(小学館文庫キャラブン!)
やわらかスピリッツ × 小学館文庫キャラブン!の「第一回コミカライズ原作小説コンテスト」大賞受賞作。
とある県丞の妾腹の娘として生まれた紅月は、父の正妻からの嫌がらせから逃れるため、下級妃として後宮に入った。だが皇帝にはお目通りすら叶わず、退屈な日々を送っている。占いとまじないが得意な紅月はある夜、後宮内で凶悪な呪いを見かけ、祓おうとしたところ、どういうわけか白猫の姿に変化してしまった。猫の姿のまま若き皇帝・凌雲に拾われた紅月は、不眠に悩む彼の寝床で一夜を明かすことに。白猫を抱いてぐっすり眠ることができた翌朝、心地よい眠りに満足した凌雲は、姿を消した猫の飼い主を探し始めるのだが……。
思いがけない流れで凌雲と関わることになった紅月は、皇帝を呪い殺そうとしている黒幕を探すため、調査に乗り出す。周囲に信用できる者がいない凌雲と、白猫の姿に変身してしまう紅月。ひょんなことから秘密を共有する二人は、数々の事件を通じて距離を縮めていくのである。
「猫の呪い」が物語の鍵を握る本作では、猫ならではの可愛らしく微笑ましい姿と、呪いがもたらす恐ろしさという、二つの魅力が巧みに描かれている。ほっこりとした猫の癒し要素と、愛憎渦巻く後宮の陰謀譚という、甘さと毒気が絶妙なバランスで同居する作品だ。
ぷにちゃん『魔法の瓶詰職人システィナはくじけない ~追放された呪われ王女は隠れた才能で一から幸せを掴みます~』(DREノベルズ)
テレビアニメ化された『悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される』著者による、ものづくりファンタジー。
第二王女のシスティナは、周りの人間のマナを奪ってしまう体質ゆえに、「呪われた王女」として疎まれて長年塔に監禁されていた。母の命を奪って生まれたシスティナに近寄る人はおらず、6歳という幼さで辺境の森に追放されてしまう。しかし、これまで塔で食事もろくに与えられず、苦しい生活をおくっていたシスティナにとって、追放先での新しい暮らしは天国だった。無愛想だが優しい青年騎士・ディグという見張りのもと、のびのびと暮らすシスティナは、大好きな魔法の瓶詰作りに没頭する。明かりを灯したり、穢れた水を浄化するなど、便利な魔法の瓶詰めはやがて評判を呼び、閉ざされていた少女の世界を広げていくのであった。
システィナが置かれた境遇はあまりにも痛ましいが、彼女の健気で前向きな姿が救いとなり、ハードな設定とは裏腹に物語のトーンは不思議と明るい。生活を便利にしてくれる瓶詰めの描写も魅力的で、素材集めから完成に至る工程には終始ワクワクさせられる。不遇な境遇から一転して、ものづくりで幸せを掴んでいく主人公の健気な姿を、誰もが応援したくなるだろう。